#158:包括的かっ(あるいは、見上げる世界はクリアでスカイ)
今日の今までを思い返すことで、少し気持ちが落ち着いてきた感はある。特に自分の勝利からは、何より自信みたいな力をもらえるような気がしていて。
大きく呼吸を繰り返しながら、私は再びの回想に入り込んでいく。
決勝第二戦……は、結構しっちゃかめっちゃかだったと思う。10名によるバトルロイヤル。混戦乱戦の中で「正統元老」「造反元老」の対立(これもやらせだったの?)に挟まれながら、ともかく必死で体を動かしていた。
VS衣袋 音子……VS志木 寧奈……あっさり「格闘」で勝てた感あるけど、格闘パートだけだったら私、結構安定してきてるのかもね……最終戦の、目の前の島大佐との闘いを前に、ほんの少しだけ自信がこみあがってくる。よーしよーし、いい感じだあ。
決勝第三戦は、「DEP戯雀:王」という、突拍子もない名前の、突拍子もない特殊麻雀の体を成した対局方法だった。
イカサマが乱れ飛ぶ展開の中で、私は一体何を見出したのだろう……結局「未来の私」=完璧姐やんにうまいことシフトさせたことで窮地を逃れたこと、これがいちばんにでかかったのかも知れない……
そして今は、最終決戦「DEPター=バーニンガー=オルビタ」の場にあり、そしてその中でも最終の決戦が、私と島大佐との間で行われることと相成るわけだ。
辿り着いたと、言えなくもない。ここに来るまでには様々な相手に、手の内、心の内をさらけ出して、そこに全力の拳を撃ち込んで倒していった。
そして自分の内面と向かい合い、自分とも折り合いをつけながら、必死こいてもがいて、各世代の人格たちを引きずり出して、自分の過去をさらけ出して共有・拡散していった。
それによって、私は自分が丸裸になって「世界」と向き合えた。今の私は、自分の身体の中を、世界から吹いてくる風が爽やかに素通り過ぎていくような、そんな感覚。
魂という物があるとしたのなら。
その「浄化」とやらは確かに起こったのだろう。いまの私は、ビルの屋上から飛び立とうとしていた、かつての私では無かった。
私をコケにし、こてんぱんに伸して、どん底まで追い詰めてきやがった「世界」の野郎。
そいつに立ち向かえる強さ……というか傲岸さ、奔放さを、この戦いを通して確かに受け取った。
怖れないし、侮らない。それが「世界」との唯一の正しい付き合い方なんだと思う。ニュートラル。全てに対応する、構えの型の名前はニュートラル。
私はそんな思考と共に、ゆるやかに左手を目線の辺りまで上げる。他はほぼ素立ちの体勢。やる気あんのかと言われそうな構えだけれど、私は悟った。これこそが、私が見つけたニュートラルの型。何に対してでも、最速で最適な応対をしていってやるわ。
対する大佐も、ようやく私としがらみ無く戦えるということが分かったみたいで、あまり見たことなかった微笑を口許に浮かべながら、華奢な体を気持ち右に流して脇を締め、両拳を目よりも上に上げたくらいのガチガチのスタイルを取る。
双方準備は整った。後は開始のゴングを待つ、それだけ。