#156:不可避かっ(あるいは、立ち返りの/ルール必要な悪党たち)
あかんあかん。聞かれてもないのに、私の方から色んなネタを吐露してしまっている。そしてそれよりも重大と思われることは、この島大佐……
初対面の他人かも知れない。
いやいやいやいやいやいや、ここまで来てそれはないでしょうよぉ。きっと大佐自身も知らない、知らされていない、どんどろな過去があるはずよぉ、この、私との。
最悪を回避するために、そんな無理やりな思考に自分を導かんとしている私がいるけど、それを冷めた目で俯瞰している私も存在していることに、実は気付いていたりもする。これはあれだ。「皆無」という名のあれだ。
「……」
図らずも、双方どないしよ……みたいな顔で向き合ってしまう。速度も徐々に落ちていきながら。
<どっ、どうなる、どうなると言うんだッ!? この対局ッ!!>
いや実況、あんたが問うてどうすんのよ。何とかせえっ! と怒鳴り散らしたいところだけれど、それで打開できるわけでもない。わーわーと叫び出したい衝動も相まって、何というかどうしようもない。
その時だった。対局云々よりも、まずはそのお膳立てに泡食っていた状態の私たちに、何とも想定外だった別角度から天啓が舞い降りたわけであって。
<……対局場を設置します。バーチャルなそちらで、存分に試合っていただければと思いますわ>
おっと~、初摩ワレ生きとったんかいィィィッ、そんな叫びが思わず出ていきそうになってしまうほど、心強い実況進行が帰ってきてくれたことに安堵を感じる私がいる。何か、全てを取り戻したような、そんな柔らかで凛と響く声。なんだかんだ、あんたの仕切りってやっぱ凄かったのね……初っ端に屠っちゃってホンッサーセンでした。
<ああっとぉー!! 何と! 31km地点を過ぎたところに、いきなり『リング』が現れたぞぉぉぉぉぉっ!! これは何という展開!! 何という盛り上がり!! 最終決戦にふさわしい舞台が!! 今ここに現出したぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!>
おい。実況ダイバルはそんな風にまた煽るけど。もうあんたは起こった出来事の描写に終始しなさい。
「……!!」
眼下には、ハツマが言った通りの「対局場」が、ダイバルが描写した通りの水色のキャンバスを持つ「リング」が、確かにその姿を現していた。懐かしい。何となくだけど懐かしい。予選で闘った、あのリングだ。姐やんが闘ってくれて、そして私も闘った、ここから見下ろすと随分と小さい四角いジャングルだ。
シンプルながら、それ以上は無い解答なのかも知れない。最後の締めは、DEPアンド格闘。大元に立ち返った、それらでいいのかも知れない。
私はひとつ大きく深呼吸をすると、身体の力を抜いて、そのリングへと降りて来る。阿吽の呼吸で、大佐もそれに続いてくれた。
「……」
キャンバスに降り立った瞬間、身体に感じる重力。なるほど、どこまでもシンプルに、ベーシックに行けってわけね。いいわ。やってやろうじゃない。ぐいと脇を締めて構える。