#155:必要悪かっ(あるいは、今日から「え?」のつく夢遊病)
ついに、高速で疾駆する島大佐と私の身体が横並びになった。速度を落として、私は最後の対局者と2mくらいの近距離で対峙する。
「……」
軍帽の下のあどけない顔に浮かんでいるのは、やはり読めない表情だ。相変らずきりりと結んだ口許からは、何も言葉が発せられる気配が無い。何なの。
<27km通過だぜぇぁっ!! 始まるのかぁ? 最終決戦んんんんんっ!?>
実況も最早ロクなことも言ってこないわけで、ここは私から切り出していくしかないのだろうか。いっそ開き直りの境地で、この場を進めていくしかないのだろうか。割ともう「ゴール」が近づいてきちゃってることもあるしね。このまま単なるスピードレースで勝敗が決してしまうっていうのは、何か違う気がするしね。
と、運営側が考えるべきことだろぉ的な試合構成みたいなことに思いを馳せちゃっていた私だったが、まあとにかく進行進行。
「あんたはもしかして……水窪 奏平の後妻? 情婦? 愛人?」
とりあえず「元・父親関連」サイドのヒトだったのならまあ、私にはもう何ら関係無いですしいいんですけどし……みたいな一縷の望みを込めて聞いてみた。が。
「ミズクボ? ソウヘイ? ゴサイ? ジョウフ? アイジン?」
島の口からはそんな一言一句をオウム返しに問う言葉が放たれただけだった。あれ違うのかな。もしくは日本語が通じないのかな。さっき「何とか雀」の時とか普通に喋っていたかと思うけど。ていうか「愛人」は流石に音だけでも分かるだろ。
うーん、じゃあ私の前の恋人関係? それまだ傷、完全に癒えたわけじゃないからキッツいっちゃあキッツいんですけどし……でも聞くしかない。
「だったら神尾 真介の……何らかってわけね?」
言葉を濁してしまった。「恋人」? とか聞くのが未だにキツかったってのがある。悔しいけど、まぁだ吹っ切れてねんだ私は。情けない。まあいいさ。こいつと向き合うことで、DEP撃ち放ちまくって、吹っ切って、魂を浄化してやる。
私はこれまでになく、ハンパねーくらい強靭な(狂人な?)メンタルで構えることが出来ている。例えどんなキツい過去だろうと……呑み込んでから、鼻で笑いつつ鼻から噴き出してやるっつーの。
顔力ここに極まれりみたいな、喜怒哀楽のどれでもないけどどれをも含んで昇華しているみたいな、すんごい顔して私は島大佐の言葉を待つのだけれど。
「え? カミオ……え?」
やっぱり、島の口から出て来たのは、そんなおとぼけた凪いだ音声でしかなかったわけで。あーもう! じゃあ一体あんたは何者なんだっつーのっ?
「わかった降参。記憶さらってももう想像つかないわ。私の負け。だからそろそろ進行しよう? あんたと私の関連っていったい何?」
ストレートに過ぎる感じで聞いてみた。もうあまり尺を使うわけにもいかないから。しかし、だった。
「え? いやあの……対局者同士? ってことだと……思う……けど……」
え?
「ああー、いやいや、そうじゃなくて。私とあんたは、過去に何らかのつながりがあったんでしょ、ってことを聞きたいのよ私は」
「……え? 『つながり』? え? いや、今日が初対面だったと……思う……んだけど」
ええ?
「えーと、え? いやあんた最後でしょ? いちばんドラマチックな関係性とかがあるんじゃないの?」
焦った私は、そんな滅裂なことを問うてしまうのだけれど。
シマ「えと。え? 『ドラマチック』って、え? 私はただ、貴女と相まみえたいと、そう予選の試合っぷりを見ていた時から感じていただけだけど……え?」
ワカ「え? 何か無いのほんとに? 父親違いの姉妹とか……そんな……え? 何も無い? え? じゃあ何でここまで引っ張ったの? え?」
シマ「引っ張ったっていうか……え? 私は純粋にこの対局に臨んでいたのだけれど……え?」
最早えっええっえ言い合うことしか出来なくなっている私らは、これ以上は無いだろう真顔同士で向かい合い、硬直するほか出来ないわけで。
……どう収束させようってのよこれぇ……ええ?