#153:野放図かっ(あるいは、差異性なる再生/ギデオン)
唐突に、脳裡にノリのいいBGMがかかってきた。集中して、のめり込んでくると自然に流れ出してきて、そしてそれに合わせて口ずさんだり、鼻唄を鳴らしてしまう、幼い頃からの私のクセ……みたいなもの。何だここにもあったじゃない。
……私というものを積み重ねてきたものが。……私というものに繋がり渡されてきたものが。
「魂の浄化」とやらは……「魂の補完」なのかもしれない。バラバラに砕け散ってしまったそれらをかき集めて、そのちっちゃな欠片を再び組み直して、「全部」を受け入れて組み込んだ、再構成した「自分」に生まれ変わる。
でも、そんなヒントの乏しい8万ピースくらいのジグソーをちまちまと組み上げていく作業は途方もないし、時間をえらい食いそうだし、そもそもそんなコト向き合うことすら避けてきていた私らだから。だからこそ、
……この「祭典」なのか? DEPを吐き出し撃ち合って、お互いを粉になるくらいまで砕きすり潰して。
そんな分子レベルにまで破砕されて、何が何やら分からなくなったところまでなった粉みじんな「構成物質」たちを。今度は、
全てを吐き出し絞り出して、それでも残った自分の中の「核」みたいな、まっさら無垢になったその「自分の中心の自分」みたいなものに、磁石に吸い着いていく砂鉄のように再び均等に、全部付着させていく。
キッツい過去も、如何ともしがたかった選択も、取り返しのつかなかった人生の1ページとやらも。
楽しかった出来事や、ゆずれない信条や、肚を決めて一歩一歩、這いずるようにして進んで来た人生の道程とミクスアップして。
全部を身に纏った、「自分の中心にいる自分」へと。
プラマイなんぼで合算できる、ニュートラルな自分へ成り代わっていく。結果マイナスがどえらい負債のようにのしかかって来ようとも。
「これから」で清算してってやる、って考えられる自分になっていく。
―そいつで人生を……買い直さねえかい、買い戻さねえかい、あねさん。
出会った頃くらいのアオナギの言葉が耳元で聞こえた気がした。
それに後押しされるかのように、手元の「アクセルボタン」を極限まで押し込み続けている私の身体はありえんほどの加速を見せる。荒唐無稽さを売りにしたレースゲームのように、「宇宙」を模した暗黒空間を、ただただ突き抜けるかのように飛び続ける。周りの星々が、残像を白線のように残しながら、私の視界の縦横を通過していく。
……取り戻してやるよ。人生、てめえに今まで貸し付けていた「幸福」とかをよぉ、
これ以上ないぴったりの気を付け姿勢で、首だけを前向けた人間ロケット体勢のまま、撃ち出される弾丸のスピードに近づけとばかりに、私はつっ飛びまくる。視界の右上にぽつんと表示された「速度計」みたいな白いデジタル数字が示す値は<330km/h>。おおう、F1並みじゃあないのよ。
……法外な利息込みで返済させてやるぁぁぁぁぁあああああああッ!!!
超々高速。現実にはありえへん空気感だけど、不思議とそれを咀嚼してなおかつ、自分の突き進む体を、自分でうまく操縦している感覚をも、脳でしっかり捉え始めている。