#143:俗世間かっ(あるいは、天と線の/いと高き所/ソノラマ)
<第一チェックポイント通過順はッ!! 一位:島、二位:塗魚、三位:水窪ッ、だぜぇぁっ!!>
相変らずのハイテンション実況が響き渡る中、前の二人は僅差で、私はそれから一拍くらい遅れる感じで、「関門」を通過した。通過順に「ボーナス」とやらが加算されたようだ。ぴりん、みたいな音声が鳴って左手のバングルの画面が光る。
と、先ほどまで「宇宙空間」を模していたと思っていた場は、突然、青空へと切り替わった。50Fくらいの高さから、下を見下ろすような、高所恐怖症には結構来る絶妙の嫌な高さだ。眼下に家々や道路や川なんかを確認しながらも、かなりの速度でそれらは流れていっている。第2ステージ開始ってこと? いやいやびっくりするわー。
<シマ : 5320
トザカナ: 2320
ミズクボ:18200>
カネの多寡=残りエネルギーはこのような感じになっている。まだまだ私が圧倒的大差を保っているものの、差としては詰まっているのであり、コトはそう容易には運びそうな気配を依然として見せやがらないのであった……
そもそもラスボスと思っていたし、実際「女流謳将」というタイトル保持者でもあったハツマが真っ先に沈んだこの状況……それが既にイレギュラーなのでは? と思わせてくるものの、もうそろそろダメに関わる事象の諸々について理解し始めてきた私には、いや、イレギュラーこそがダメの本質、本道なのでは? との思いの方が重くのしかかってくるかのようで。
要は、よくわからん。何がどうしてどう転ぶかは、この世界を俯瞰するかのように超越した、何者かの匙加減なんじゃないの的、どうにも滅裂な思考にまたしても浸ってしまう。いや、よくそんな感じになってしまうけれど、そんな場合ではいつも無いわけで。
「きゃはははッ!! 初摩を落としてくれてありがとぉ、ミ、ズ、ク、ボさんっ」
おっと、初めてまともに話しかけられたような気がする。銀髪蚊取り線香ヘアの、塗魚だ。私の、腕を伸ばせばその踵に触れられるんじゃないかくらいの前方で振り返ると、そんな人を小馬鹿にしたような口調で言ってくる。つくってんのか? 割とお前もわかりやすいな。
「なぁんか、えらそげな事のたまってたけど、案外あっさりやられちゃってぇ、ウケる」
続けてわざとらしい間延びした声で述べてくる。その表情はくるくる動き、わざとらしいと言やあそうだけど、やる気にはなったのか? こっちの出方を推し量ってんのか? 単なる挑発か? よくは分からないけど、そんくらいの方が、こっちもやりやすいわ。と思っていたら。
「そもそもぉ、『元老』とか、はっきり言って邪魔で無駄? あいつだってそんな旧態改めたくてアタマ張った経緯あんのにぃ、やっぱそうなっちゃうんだぁ、みたいな失望、あたしにはあったのよね、ずっと」
その軽薄ヅラに押し込めているようだけど、言葉の端々に、如何ともしがたい濁流のような感情が滲み出てること、自覚してる? あんたはあんたで色々あるんでしょーよ。それはもう、肌で感じるレベルで分かる、私には。
いつの間にか、塗魚は私と隣り合うくらいの位置まで下がってきていた。人を食ったような笑顔。ところどころにひずみみたいのが浮かんで消える、そんな笑顔。でもそれ、仮面でしょ? そこはもう全部脱ぎ捨ててよぉ……無様なすっぴんでお互いやり合おうぜ?
……決着をつける。次はあんたと私のサシで、向き合っての真っ向ぶつかりで、昇華してやろうじゃないのよ。
……お互いの、ダメの諸々を。