#142:先駆者かっ(あるいは、ライナー/ノトーリアス式/フラジャイロ)
ぐるぐると、縦軸方向に回転を加えながら、私はハツマの身体をさかさまに担ぎあげた姿勢のまま、足元に肉薄していた木星のようなビジュアルの「惑星」の像へと、着陸したわけだったのだけれど。
「……!!」
ちゃんと手ごたえ(足ごたえ?)を感じた。途端に体全体に走る衝撃と共に、私の思考は一時中断する。そしてこの超絶技を喰らって、ハツマは白目を剥いて気絶してしまったようだった。美麗な顔が台無しね。でも、貴女がさらけ出してくれたからこそ、私も肚の内を割って、相対することができたのかも知れない。
いや、またそんな達観しとる場合でもない。
いちばん厄介と思っていた、主催者でありラスボスであろうはずのハツマを屠って、これにて終了みたいな空気に私は包まれていたけれど、勝利は無いままにレースは続いていくようだ。
ハツマの身体を「木星」の地表に横たえた私のすぐそばを、島大佐と塗魚が、激しいデッドヒートまがいの競り合いを演じながら、高速で通過していく。やろう、とことん最後までやろうってことか。
奴らが狙っているのは「10.5km」地点に設けられていると聞いた、「チェックポイント」のはず。1位通過で5000万、2位が2000万、3位は1000万をGET出来るというのは、スタート時に既に「1000万」しか持ってなかった両人には、喉手レベルのプラス要素だ。
まあまだこちらは1億7000万ほど残ってはいるわけで、そのカネの多寡から考えると、私の優位性はまだまだ揺るがないと見るが、他の二人は持ち金1000万スタートで、時速60kmで10km分飛んだと仮定したら燃料費としては「マイナ600万」だから残り「400万」くらいか。そんなかなり所持金を減らしているはずの両人が息を吹き返してしまうこと、その方が懸念点だ。
慌てて二人の後を追う私だったが、奴らもここが勝負所と見て、その速度は半端ない。
……追いつけるか……っ?
自問自答はいつものことだけれど、今の私は「六人で一人」。すこんと状況把握した私の中の「私」が、即座に命をくだそうとするけど、
……ここは行かせる。
なぜか、私である「私」は、そんな考えを浮かび上がらせていた。余裕、ということではない。ハツマが目指そうとしていたもの、そいつが薄ぼんやりだが見えてきていたから。
彼女に恩義を感じている? それもちょっぴりはあるのかも。でもそれとは別個で、「ダメ人間」たちと向かい合いたくなっている私がいる。
ダメ人間……いや、人間ってすべからくダメだから、つまりは、自分じゃないほかの人間たちを、見知りたい……そんな、ごくごく当たり前の感情なのかもしれない。
あ、いや、そんな殊勝一辺倒でもないか! 自らの手で、やつらを裁き屠りたいだけ……? またもや滅裂感に脳内を支配されながらも、私は残る二人の対局相手が疾駆する真後ろへ、ぴったりとくっついたまま、無駄のなくなってきた直立不動の姿勢で人間弾丸のように飛翔を続けていく。