#141:素寒貧かっ(あるいは、脳裡/いずくんぞ/ファーラウェイ)
「……!! ……!!」
やってもうた。ハツマのDEPを遮ろうとして、物理で遮ってしまった。驚愕の瞳、震える鼻息、そして徐々に力が抜けていく唇。
のっぴきならない闘いの場から、別なベクトルでのっぴきならない百合百合な場へと転移してしまったかのようだ。どうしよう。当の私が言うのもなんだけど、どうしようこれ……。
<ガッ……!!>
流石の実況も固まって、そんな絶句音を響かせるだけだったけれど。そして眼前のハツマはだんだんと驚きの表情から、恍惚の表情へと移行しつつあるけれど。
こ、これはあくまでハツマの攻撃を回避して、隙を作るためにやったんだからねっ!! と柄にも無いメンタルを表出させて襲い来る甘美感を断ち切ろうとしてみる。いかんいかん、呑み込まれてしまいそうだ。
「!!」
照れ隠しに思い切り相手の口中に息を吹き込んで、その可愛らしいほっぺをドモンと膨らませてから、お互いの顔をポンと離していく。そして、
「ハツマ アヤ……あんたが目指したものが何なのかは分からないし、私にどんなことを求めているのかも知らない。ただ、『これ』があったから、私は今もこの『世界』に居続けている。居続けられているの」
ほどよく力の抜けた感じで、離した唇から、私はそんな言葉を紡ぎ出していた。自然に、ニュートラルに。
「……!!」
本当に泣き出しそうになるのをこらえた、歪んだおへちゃな顔を……「本心」からの表情を、ハツマは見せてくれていた。上気した頬に、雫を伝わらせながら。
「ありがとう……私は生きるわ。これからも」
私の言葉は、遂にハツマをうつむかせてしまう。けど。対戦相手から目線切っちゃってぇ、大丈夫?
瞬間、私は隙をさらしたハツマの右肩に自分の頭をねじ込むと、その身体を無重力に感じる空間の中で軽々と担ぎ上げる。実際、私らの身体を保持しているはずのワイヤーがどんな感じで錯綜しているのか、それは分からなかったけど。絡み合っていないことを祈るだけだわ。
ワカ「通常出せない推進力をもって……この戦いに華を添える奥義を、ハツマ、貴女への餞とするわ」
実況<あっるぇ~? 感動で締めくくると思ってたのに、何か違うッ!! やっぱ違うッ!!>
ワカ「六つに分かれていた私は今、ひとりに結実した。過去も未来も飲み込んで、これが新しい私が放つ、決意の狼煙だッ!!」
実況<い、いい感じのキメ台詞的なことをのたまっているけど、多分それもスペックオーバーでオーバーキルな意味不明の狂気ィィィィっ!! ハツマ何とか踏ん張れぇぇぇぇッ!!>
ワカ「……この『完成型=アルティメット若草シックス・OPPIROGE MAN 29バスター:俺たちニッポニア・ニッポン』にて、2億王に、俺はなるッ!!」
実況<わっかんねー!! 言葉の意味はもうわっかんねーけど、溢れ漏れ出るヤバさだけは脊髄で感知しちまったよぉぉぉぉぉうッ!! 止めろ、大佐、塗魚ぁぁぁぁぁぁぁっ>
……実況の困惑の叫びが響く中。
私は脊椎を軸に横回転も加えていく。本当にワイヤーがどうなるかは分かんないけど。落下方向……いや進行方向は「前」。暗闇のさらに先、光の射す方向へ。
「脊髄よぉぉぉぉぉぉぉッ!! 私の声をきけぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
絶叫からさらに一個超えたところにあるような、そんな体全体で放つような雄叫びを上げながら、私はハツマと共に、飛び込んでくる「惑星」のひとつへと突っ込んでいく。