#137:形而上かっ(あるいは、果実王に、(以下省略)ッ!!)
割とのっぴきならない超・豪速のスタートだったけど、勢いよく飛び出した後は、何だろう、ほぼほぼ無音でほぼほぼ何もない空間を疾駆するばかりで、かえって視界とかは安定してきたみたい。
それよりもこの宙を飛ぶ感じ……いいね。クルマで飛ばしている時と似ているけど、重力から解き放たれているかのような感覚がある分、ブっ飛びかたは段違いだわ。私はしばし陶酔にも似た高揚感に包まれて暗黒空間をひたすらに突き進んでいっている。時たま至近距離を掠める「惑星」っぽい像に慄いたりするけど、大分慣れてはきた。
<1km! 通過!!>
おっと、そんな実況も入るの。最初はみな様子見なのか、ほぼ横並びのまま、ただただ先を目指すかのように飛んでいるけど。仕掛け時は……いつなんだろう?
「……」
沈黙の3人。何だ? ラスボスこと主催者ハツマが出張ってきてからは、まったくもって、島大佐と塗魚の両人はなりを潜めている。対戦相手としては持ち金も少ないし、意に介する必要は無いのかもだけれど、それだけにあなどれない、不気味な存在とも言える。
でもこのまま仲良く並んでゴールを目指している場合でもないでしょ。いっとう最初に痺れを切らしてしまったことに一抹の不安感があるものの、ここは先制。先制しかない……っ!!
<!! 水窪着手だぁっ!! まずはご挨拶とばかりに、DEPを撃ち放つつもりだっ!! 積極的! その積極案は、実を結ぶのかぁぁぁぁぁぁっ!?>
うーん、実況盛りすぎ。いやいいんだけれどね……私は既に左手の「操縦桿」を模したデバイスの青ボタンを親指で押し込んでいる。そして、
「『指名』っ!! ハツマぁっ!!」
でかめの声でそう告げた。まずはお前だ。お前の「ダメ力」がどれくらいかを……計らせて……もらうっ!! 3mほど右斜め前方を、時たま華麗なスピンを決めながらも余裕の高速で飛翔していたハツマが、私の方を振り向いて、にこりとした自然な笑みで見やってきた。余裕……あくまで余裕か。
「『食い合わせ悪いって迷信でしょって、友達がタイの物産展で買ってきたドリアンを泡盛で流し込んで、別に何ともなかったけど、帰りの電車で泥酔爆睡してたら、えらいニオイだったらしく、上下線が一時運行を止めた』」
死体かと思われたらしい。そんなすぐに腐敗はしないだろうけど。
<……ッ!! まだ残しているのかッ、そんな弾丸をッ!! 水窪選手の渾身のDEPはぁぁぁっ……評点、『79,833pt』ッ……!! これはかなりのスマッシュ感だぁぁぁっ!! 指名相手、初摩選手、どうする相殺っ!? 制限時間はあと10秒だぞぉぉっ!!>
ダイバルの畳みかけるような、こっち追い込んでない? みたいな実況にも動ぜず、ハツマは笑みを緩めない。やろう……私の方が嫌な空気を抱き込んでいるように思えてきた。
高速移動を続けながらも、緊張感は否応増していっている。