#136:空中戦かっ(あるいは、アルメ、どれなんだい?/いやマジで)
<コースの道程は、これまた未知……道だけに未知……ッ>
本当にどうしようも無くなってきた電飾実況少女―ダイバルだったが、浮かぶ球体からその右腕をすっと横に差し出すと、その指先の電飾から白色のビームが放たれる。
その真っすぐな軌道の「白線」は、横一列に並んだ私たちの眼前を横切り、遥か彼方の暗闇へと吸い込まれていった。
要はスタートラインということなのだろう。もったいぶった要らん演出はいいから、とっとと始めて欲しいのだけれど。
<さあ始めよう……最後の戦いを……こいつが正真正銘最後ッ!! 泣いても笑っても最後の戦いだからなぁ……>
なぜこの目に来る電飾は、テンプレ気味の台詞的なものを、のたまい気味なのだろう……私は身の内で湧き上がって来ている「やる気」という名の炎が消えかけ始めていることに内心焦り始めているというのに。はよやろう?
「……若草、さん?」
と左隣から、チラ見するだけでその魅力的なものに引き込まれていってしまうような、抗い不能の微笑の持ち主が、軽やかな声で私を呼ぶけど。顔のバイザーみたいなゴーグルみたいなものを私らは今確かに装着しているものの、「ここでのビジョン」では、素顔が普通に見えている。これもVR技術によるものとでも言うのだろうか……っ?
なに? と声には出さずに、引き込まれないように、私は微妙に目を逸らしながらそう問う。何か、実況やってた時とは諸々、感じが違う。これがほんとのハツマ?
「……実は私、はじめてお会いした時から、貴女と相まみえたい、とそう思っていたんです……貴女の存在は予選の時からずっと注視していましたし、なにか、その溢れ出る『ダメ才気』のようなものが、とある御方に非常に似ていたということもありまして……」
何か、もって回った言い方だな。この「首謀者」とも呼べるハツマ……何を企んでるかは皆目さっぱりだけれど、私に興味を持っているのは確かなようで。何というか今回ばかりは正々堂々と来そうな予感……いやそれはないか。
「……全力を出す。それだけ」
余計な言葉は、一語でも発したくなかった。その分、身体から気合いの熱気が放射されていってしまうように感じたから。でもその短い言葉に、思いがけずぐっと力強く頷くと、ハツマは前方を余裕の笑みで見据える。
<それじゃあ始めるとするぁっ!! 細けぇことは事ここに至ってはぁぁぁぁっ、どー!! だって!! いー!! んだぜぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁっ!!>
ハスキー感全開で煽る実況。「外界」から遮断されているので見聞きすることは出来ないけど、周りの観客たちはMAXボルテージなんだろう。ほぼほぼ静寂が支配するこの「最終戦場」にはそれらが響いて来ないけど、何となく分かる。
走る緊張。スタートの合図を、めいめい4名は神経を尖らせながら待っている。無言で、そして凄まじいまでの集中力を持って。そして、
<オンニュアマー、ゲッセェ、ゴー!!>
英語なのか韓国語なのか、ちょっと判別しにくい発声により、唐突に開始が告げられた。
「……!!」
その合図と共に、私は右手の赤いボタン……「アクセル」をベタ押ししている。瞬間、自分の身体にかかる凄まじいばかりのG。次の瞬間、時速60kmとは聞いていたけど、生身の体感としてはどんだけ? ってくらいの、経験は幸い無かったけど正に落下するほどの速度感で私の身体は、作られた「宇宙空間」の中を撃ち出されるようにして推進していってる。