#135:綺羅星かっ(あるいは、星帝はコトを仕損じることなかれ)
周りの喧騒は既に止んでいた。ごついヘッドセットで遮断されているからだろうか。代わりにピユーン、ピュピュピュピユゥゥ、みたいな、いかにもな「宇宙音」が静寂の中に満ちいっている。無音よりも何だか宇宙くさい。
辺りを見渡すと、大小様々な色かたちの星々が、瞬いている。真空設定であろうはずなのに。でも瞬いていた方がそれらしいのだけれども、何だかどこまでもエセであり続けようとしてるような、かえっての清々しさをこの「空間」に感じている私がいる。
ここは「ダメ宇宙空間」なんだろう……最終決戦場として、これ以上の場所は無い。
それにしても、どこまでも落ちていきそうな暗い空間だ。あの時、私が覗き込んでいた景色よりも、暗く、深い。
「飛ぶ」のか、やっぱり私は。でも今度は下に向かってじゃあない。全てを掴むために前へ、真っすぐに飛び駆け抜けるんだ。
<……『DEP』は『1秒=100,000円』レートだぁっ!! 相手を指名してから、左手の『青ボタン』を押し込んでいる間だけっ!! 『DEP』として認識されるぜっ!! そして『着手』が終わったのならば、指名された相手は、『相殺DEPチャンス』が与えられるっ!! 評点で上回れれば、指名してきた相手に『倍』の電撃を与えることが出来るから、指名されても慌てんじゃねえぜ?>
10秒語っただけで100万取られるのかよ。またしても暴利。いやそれもそうだが、どうしてこのダイバルとかいう実況の女は、嘘くさい喋り口をしているのだろう……と、先ほどからの疑念に似た思いが私の胸に去来してくるけど、諸々すべてのこの嘘くささこそが、何か今の私には心地よかったりもする。
キッツい人生も、全部うそっぱちかも知れないよ? って囁きかけてくるかのように。
ちょっとだけ、私は楽な気分になっている。そうだよ、全部が全部、嘘っぱちみたいなもんかも知れないじゃん。みんな、難しそうな顔で日々を過ごしているけれども。
世界は書割、ヒトはモブ。世界の中心に私はいないけれど、私の中心にはきっと私がいたい。この嘘っぱちの世界を俯瞰してやるかのように。
んでも、カネだけは違う……か、カネだけはこの世の唯一見える魔法……と、あんまりな意識(誰だ?)が私の運転席らしきところに横座りしてきそうな気配を感じ、私は私、と一発、気合いを入れて、そいつをぐいいと押しやる。
<そのほかの細則は最速で催促してちょ!! とーりーあーえーずーのー……開始をここに宣言するッ!!>
中空にカプセル状の「実況席」みたいのが浮かんで、電飾実況はそこに収まりつつ、耳をつんざく声で煽ってくる。ダイバルのメンタルは今日いち掴めないのだけれど。ようやっとスタートだ。最後の対局のはじまり。最後……ぶっ放つしか、ないっ!!
<……水窪、セコンドの助言は出来るとのことだ>
と、いきなり耳元で囁かれているかのように、カワミナミ君の声が割と近場で聞こえる。おおう、そいつぁ何とも頼もしい限りよ。
<『細則』とやらは……こちらでも全力で調べてお前に伝える。だから……>
と、ふいにその音声が途切れた。かと思ったら異様なほどのハウリングが私の鼓膜を貫かんばかりに起こり、
<ゲハァァァァァっ!! 姐さんっ!! 我らもおるぞなもしぃぃぃぃっ!!>
<だッ、だから存分に……ブチかますんだからねっ!!>
例の二人のわきまえない発言が大脳に届くか届かないかの瞬間、意識をシャットさせて私はスタートの合図だけに集中していく。