#134:陰日向かっ(あるいは、序は急/フラグ通り/エッセンシャル)
<……スタートの合図と共に、『アクセル』が解放される……そう、右手親指の位置にある赤ボタンだ……そいつを押し込むことにより、謎の推進力によって、お前たちの身体は、前方へとカッ飛ぶんだぜ……>
どことなく嬉しそうな実況ダイバルの声がぐいぐい耳に入ってくるけど、「カッ飛ぶ」言い過ぎだってば。そんな使用頻度高い語句じゃないよ?
と、私がまた真顔でどうでもいい思考に陥りかけている中、どこにそこまで、と思わせるほどの意気揚々とした感じで説明は続く。
<基本はカネが物を言うッ!! 先ほどまでの対局で得た分を『燃料』に替えてカッ飛ぶんだぜ! ッハアっ!!>
うーん、その無尽蔵なテンションはどこから湧いてくるのだろう……でも「カネ」なら今の私に相当なアドバンテージあるよね……「2億」。それをあの姐やんの爆裂ツモで得たわけだし、他の大佐とか塗魚は「1000万」って言ってた。20倍。こいつぁ圧勝の気配……っ!!
と余裕の笑みでもかまそうかと思っていたけど、左腕に装着されていたバングルに表示されていたのは、
<ハツマ :20000
シマ : 1000
トザカナ: 1000
ミズクボ:20000 >
という文字数字だったわけで。単位は「万」。それはいいんだけど、ハツマも「2億」持ちってことかよ。野郎……あくまで私は勝たせないって、そういう寸法かっ。
<チェックポイントは『3ヶ所』!! 『10.5km』『21.0km』『31.6km』地点に設置されているぜぇぁっ!! それぞれを抜けた順位で、『ボーナス』が付与されるからレース中は1mmも気が抜けないぜっ!!>
……約10kmごとにあるってことか。詳細情報を求めて、私は改めて左腕バングルの表示を見やる。
<第1CP
1位: 5000
2位: 2000
3位: 1000
4位: 500 >
<第2CP
1位: 7000
2位: 4000
3位: 2000
4位: 1000 >
<第3CP
1位:10000
2位: 6000
3位: 3000
4位: 1500 >
……後に行くほど多寡は大きくなる。ということは? 前半飛ばすよりも、後半のスパートに重きを置いた方がいい? いや、圧倒的な資金力の差で序盤から押し切る?
「……」
是非は分からないけど、分かったところでどうせそれも覆されることにもなろうなんだけれど、とにかくこの「レース」……「カッ飛ばし」で行くしかないのだろうことは薄々分かってきた。
<レートは『時速60kmを1秒』出す値段が『10,000円』になるっ!! そこから『10km』時速をあげるごとに1秒が『20,000』『40,000』と倍々に加算されていくからぁ~そこは残高に気を付けてくれって話だっ!!>
……カネで「燃料」を買うっていう解釈でいいのだろーか。それならシャバと変わらない。「42km」を仮に一律「時速60km」で走破すると仮定したら、「42分」かかる。それに必要な「燃料代」は「2520万円」。なるほど、つまりハツマと私は、今の所持金でも最低速度ならゴールまで行き着ける算段となる。これははっきり一騎打ちの形とならないだろうか。
まずはハツマの行動をマークすること、それが最重要の事項と思われる。そして向こうもこちらの動向は注視してくることだろう。
そして注意すべきはもうひとつ。時速を「10km」上げるごとに「倍々」……「時速70kmで1秒20,000円」「時速80kmで1秒40,000円」「時速90kmで1秒80,000円」……段々眩暈がしてきたけど、違法レベルのハイレートだ。迂闊に「時速120km」とかでカッ飛ぼうものなら、ものの5分でトんで終わり。
速度の駆け引き……これが重要なのか。そして果たしてこれは、ダメの要素がないがしろになってはいやしないのだろうか。運営側がケアすべきところを、無意識のうちに危惧してしまっている自分がいるけど。いや、そこは私が気にするところじゃあないか。