#130:一辺倒かっ(あるいは、天上/ソラ高く/降臨グ)
<決勝最終戦はッッ!! 『DEPター=バーニンガー=オルビタ』!! っだッ!!>
緊迫感があるのか無いのか判別しがたいこの場に、件の電飾少女のハスキーボイスが、空気をびりびり震動させながら響き渡る。
「っだッ!!」っとタメて言われても、だからそれは何? という疑問しか浮かばないのだけれど、そこに突っ込んでも何も起こらないのがこれにまつわる全てのことであって。
そろそろ私は理解し始めてきている。それがいいことなのか悪いことなのか、はたまたどうでもいいことなのかはよく分からないままなのだけれど。
この場に立ち向かうこと。それが今の私のすべき全てのこと。そんな覚悟じみた奇妙な決意は既に出来ている。出来上がっちゃってる、って言い換えた方がいいかも知れないけどね。
それよりも何よりも先ほどから気になることがある。何故今更ながらに「実況」が交代した? 「決勝最終戦」なんていちばん盛り上がるところじゃあないのよ。それスルーするってことあり得る? いままでの実況……いや、「主催者」、ハツマさんよぉ。
私の確信に近い思いは、ずっとにらみ続けていた「正方形対局場」の対角線上の一角に備えられた階段を上ってきた人影を見て、実を為す。
「……私が持つ『女流謳将』のタイトル……存分に獲りに参られよっ、ですわのよ」
にっこり、とこれまたそんな音が出てそうなほどの満面の笑みを浮かべつつ、姿を現したのは、やはり、やはりのハツマだったわけで。口調は姐やんみたいになってるけど。
私ら対局者が身に着けているのと同じく……黒い全身スーツの上に、ヘッドギアから肩胸、腕、膝を覆うプロテクターの出で立ち。「特別感」を醸し示すようにプロテクターの色は光沢のある鈍い金色だけれど。
つまりは私らと同じ土俵の上に降りて来たってぇわけだ。これが予定調和的なことだったのか、あるいは突発的な思いつきで為されたことなのかは、今の私には分からなかったし、分かる必要も多分無いはずだと感じた。
ただ、目の前に現れた「敵」と闘う。そして倒す。それだけよ。
「……」
私は殊更に目力を漲らせながら、傍らの大佐+塗魚をその静かな気迫で圧倒していくかのようなオーラ的なものを纏った、華奢で美麗な女の姿を真っ向に据えて待つ。
と、突然、笑みを深くしたそのハツマが、腹の底から出したかのような、どこから響いてんの? みたいな声を張り上げて来る。
「『正統』だ? 『造反』だ? ……調子こいてんじゃあねえぞ?」
フラットな物言いだったけど、かえってそれが恐ろしさを否応増しているようで。笑顔を保ったままのハツマの声に、びくっと体を震わせる左右の大佐と塗魚。
おいおい、ラスボス登場かよ。そして今までと随分雰囲気違うじゃないのよ。
「……結局はこうなることは、予測通り。若草さん、とそうお呼びさせていただきますけど、全力でいかせてもらいます。ダメの王に君臨するのはやはり、私でなければ……」
言ってることのほとんどが滅裂感を増してきたハツマだったけど、その目は笑ってはいない。その表情が無い割には相変わらずこちらを引き込んでくるその目つきに、しかし私も逸らさないままで目線を合わせ続ける。