#129:悪趣味かっ(あるいは、唐突な/唐突かっ/最終章)
<最っ終ッ、決戦んんんんんんんんっ!!>
準備が整ったようだ。相変らず人心を掴んで離さない体で、実況ハツマの心引っ掴んでくる澄んだ声が、この地下球場を満たす空気全域に伝導していくようだけど。
「最終決戦」。確かにそう言った。ほんとにこれが最後、なのだろう。まあ残り面子も3人に絞られてる。最大でもあと二戦、そんな風にも思っていたけど、まとめてカタがつくなら、このガタの来てる私にとっては好都合と言えなくもない。
「……」
「決戦」の舞台は、例の如くの早業で、土のグラウンドの中央辺りに既に設えられていた。今回は割と小さめな「脚場」。高さも2mくらいと割と控えめ。最終戦にしちゃあ地味だな、とかは考えない方がおそらくは良かったんだけど、考えちゃった。
むしろ、「脚場」から遥か上空へ向かって伸びるワイヤーらしき細長いものとそれを吊り下げている10mはありそうなクレーン4台から目を、意識を逸らそうとしていた。けど逸らしようもないわけで。
これ絶対吊られる系のやつだろ。一辺が5mほどの正方形の「脚場」の頂点にそれぞれ、長いアームから垂直に垂れ下がった細い何本かが縒り合された紐状のものが、近づくにつれてはっきりしてくるけど。
段に切られたその十段くらいをゆっくりと上っていく。「舞台」には四方から白熱したスポットライトが当てられていて、近づくごとに体感温度は上がっていくわけで。高揚もしてきている。私自身が、この戦いを、最後まで戦い抜きたいと、はっきりとそう感じ始めてきているから。
そして左右に分かれて、対局者の二人も同じように場に上がって来て対峙しているのも徐々に開けていく視界に入ってくる。
島大佐アンド塗魚。
決勝始まってから割と長い間、顔を突き合わせてきた二人だけれども、そこまでの絡みもなかったから、案外印象薄いな……くらいの思考が持ち上がってくるけど。
いかんいかん、そんな詮無いことを考えている場合じゃあないのよね。
しかし先ほどから依然として頭の片隅に居座るこの違和感は一体何なんだろう……?
決勝……決戦。「女流謳将」……
これはもしかして、タイトルを奪い争う戦いだったのかしら。だとしたら。
四角い「舞台」。そして4つのクレーンに4本のワイヤー。嫌な予感は脊髄辺りをいったりきたりしている。
<そしてここからはっ!! このダイ=バルチュアが司会を務めさせてもらうぜぇぁっ、この野郎っっっ!!>
そんな私の横っ面を跳ね飛ばすかのように、ハスキーでよく通る声が響き渡る。ハツマじゃあない。実況が代わった……それは何で今更? と思わさせられるものの、いややっぱそうだよね、みたいな妙な納得感もこちらに抱かせにかかってきてるわけで。
「舞台」のど真ん中に余裕を持って出て来たのは、何故か体中に電飾らしき緑・ピンク・黄色の目に来る蛍光色を纏わせた、長身の女性だった。クール&ワイルドな風貌は、カワミナミ君に似ていなくもないが、全身から溢れてくる強烈な「動」のオーラは、見る者を容赦なく圧倒してくるわけで。
私は気持ちを切らさないよう気張りつつ、「正方形脚場」の頂点辺りに立ち尽くしながら、その反対側の頂点……対角線上の空いた一角をじっと見ている。