#128:凌雲かっ(あるいは、去来せよ/我に/ピユリファケイション)
時刻は20時30分。いい時間ねって言うか、長すぎだっつうの、この諸々はぁ。
一応もぐもぐタイムは設けられていたものの、10分程度しか無かった。運営側もここまで長引くとは計算違いだったようで、会場設営やら、機器の設置やらを慌ただしい様子で行っていることは見て取れたけど。何か焦りが見られる。まあそれはどうでもいいのだけれど。
いま一度言うけど、おそらくは、次で最後。
最後になるのだろう。私含めた残る3名で何をやるのかは皆目わからないけれど、そろそろ身体も精神も限界に近付いている。他2名……島大佐も、塗魚だって多分そうだ。ふ、と私を挟んで左右3mくらいの間隔で立っている二人をちらちらと見やると、隠せないほどの疲労が、ロリ系と小悪魔系双方の小ちゃい顔に滲み出ていた。
「……」
私も、真顔と白目の中間くらいの顔つきで、ただただこの土のグラウンドの上に立ち尽くしている。
いろいろあった。あり過ぎた。以前までの私だったら、とっくにフケずらかっていてもおかしくはないほどに。
でもまだいる。まだ私はこの性懲りも無い「女流謳将戦」……いや、「ダメ人間コンテスト」の真っただ中に居続けている。
何でだろ。考えても多分、答えは出ないと思う。
いろいろと考えた。いろいろな自分に振り回されたり、真っ向からぶつかっていったりもした。
……その結果、私はここに「いる」のだろう。多分そうだ。
―世の中の人間はよぉ、思い出しただけで鳩尾の一点に内蔵が全部引き寄せられちまうような、そんなキッツい過去を身体の深奥に住まわせたまま、日々を生きてるんだ、姐さん。
いつか、トレーニング終わりの、アルコール全吸収体制の時にワインをかっ喰らった際、想定以上に早く酔いが回ってしまったかのようなアオナギが、なんか判らないけど自然な表情でのたまっていたことをふと、思い出した。
―そのキッツい記憶は、時間では風化しねえし、無くなりもしねえ。刺さるトゲはやがて自分と一体化してその存在も感じなくなっていくが、鉛の玉みたいな重みは残り続ける。吐き出せねえ、消化もできねえ、そんな硬い重い玉が。
酔いで濁った目をしてたけど、何か、軽やかな口調でそう言ってのけていた。ほぼほぼ聞き流していたつもりだった私だけれど、しっかり記憶はしてたのか。私の中の「誰か」が。
―その重いのは、自分の内に呑み込んだままじゃあ何も変化しねえが……ネタにして笑い飛ばしちまえば、瞬間、分裂して、揮発して、拡散するのさ。DEPってやつはよぉ、他人と共有するからこそ、自分の中から解き放たれていくってことだ。
……最初からきっと、それを伝えたかったのだろう、あの汚い長髪は。その時の私は悟ったかのようなその物言いがムカついたので、さくりと右手で形作ったきつねさんをその両目に刺し込んでいくことしか出来なかったけど。
今なら分かる。今なら感じる。たどり着いたんだ私は。この、魂の浄化の祭典とやらに。
「あの時」の出会いから、たったの二週間。その間の鍛錬の日々も長いとは思ったけれど、きょう一日の長さは段違いだ。濃縮? 凝縮? されているのだろうか、時間が。
歓声は収まることなく、今もドーム状のこの空間にうわんうわんと反響している。