#127:大志かっ(あるいは、ネクロ、飲み込んまないのか08秒)
決勝第三戦は終局。今回「私」は何の脈絡もなく戻ってきたわけだけど、何となく、他の「みんな」との住み分けが出来てきた、そんな風にも感じている。
まあそれはそれで良かったね、ということにしても。
体の節々がいたぁ~い。筋肉の内側、骨の近くまで痛み浸透してない? みたいな感覚。
人ひとりを抱え上げた状態で、キャスター椅子に跨って螺旋階段を3階相当の高さから下り降りるという、一歩間違えれば事故、間違えなくても正気の沙汰では既にないという荒行を、今日いちばんの無駄な集中力を発揮して、モーグル選手が如く駆け抜けた私ではあったけど、姐やん……やり過ぎですやん。
その断続的にもたらされる衝撃により、シギはあえなく泡吹いて失神したけど。その股布は例の如く頑強な抵抗を見せ、無事だった。ちっ。
かく言う私の方にも結構な振動衝撃が与えられていて、まあ本当言うとその衝撃に一抹の快感も感じてしまっていたイケない私ではあるのだけれど、とにかく、限界感たぷたぷのこの体にとってリミット超えの外力が加えられたことによって、もう起き上がることもしんどくなって来ている現状がのしかかってきている。
「いやはひゃ~、流石ですぞぉぉぉ、姐さん、ま、さ、に完璧ッ!! あの『アガリ』も、最後の『大技』も、もはや言葉で言い表すことも出来んほどの凄技でげしたぞぉぉぉぉっ」
「ま、あの『錬金術』があれば、DEP勝負では負ける要素ねえわなぁ。ん? でも『36歳設定』のあの『姐やん』が『未来』ってぇことは、今の姐さんは……? ん? あれあれ? おかしいな……これがこう来て、こう。こうってことは……ええと」
毎度のごとく、すっかり私物化した医務室にて、ベッドに気を付け姿勢で仰臥していた私に、例の二人がまた聞き苦しい声を掛けてくるというか、勝手にさえずり始めるのだけれど。
「……」
もはや大して意識せずとも形成すること可能となった(それはそれでどうか)「不気味谷・深淵」の顔を突きつけて沈黙させる。そこに長身の麗人が流麗な足取りで、音もなく室内に踏み込んできた。
「……もうここまで来たら言える言葉は無いが……月並みに『頑張ってくれ』と、そう言っておく。水窪、もう少しだ。もう少しで、お前の望んだものが……手に入るのかも知れない」
カワミナミ君は無表情だが、そんな言葉を掛けてくれる。「私の望んだもの」……それは「お金」なのか「命」なのか、もう既にわかんなくなっちゃってはいるものの。
「……」
ケジメは付けるつもりよ、私は。どうあがいたって、時間は留まってくれやしないし、今ここにいる「自分」にだって留まれるわけでもない。
だったら変化を恐れずに、ただただ進み続ける。要はそういうことなんだって、気付かされた。
ふんと鼻から気合いのひと息を吐き出すと、簡易ベッドの上に上体を起こして、カワミナミ君が差し出してくれた、透明なカップに入った薄い黄色と深い赤色のマーブル模様のジュレ的なものを受け取り、付属のスプーンで即座に体内へとかっ込み送り込んでいく。
カシス&グレープフルーツ……そして隠し味にこれはブラックチェリー……?
いつもながら絶妙の美味しさの差し入れに人心地つきながらも、私はおそらくは最終戦となるだろう……次なる戦いに向けて、静かに気合いを入れていく。