#126:収束かっ(あるいは、トライアゲン!裁き王/摩訶露西亜打)
わたくしは改めて、志木さんの体を抱え直しますのよ。右肩に相手の肩を乗せたまま、両脚を割り広げるように保持していた両手を、右手は背中側、左手はお腹側を通して、股間のスーツを前後からしっかりと掴み直しますの。
スポットライトがわたくし達を照らし、そして周囲の観客の視線も集まっていることを肌、いや産毛の一本一本で感じ取っていますのよ。
わたくしは、周囲に知らしめるかのように、殊更に声を張って、言い放ちますのよ。
ワカ「わたくし達のこのスーツ……衝撃には滅法強いことを何度も実感させられましたけれども、『連続した衝撃を与えたら破壊出来るのでは?』……そんな結論に至りましたのよ」
ハツ<いやぁぁぁぁぁぁっ、至ったら、至ったら、らめらのぉぉぉぉぉぉぉっ!!>
ワカ「そして、スーツの構造を鑑みると、横からの引っ張り、これは愚策だったのですわ。前後から縫われている箇所を狙って引き裂く、これこそが……たったひとつの冴えたやりかた……」
シギ「エヒィィィィ、サセンシタァァァっ、ちょっと同世代っぽい雰囲気かましてたから、ライバル的な立ち位置に収まろうとか、そんな浅はかな考えだったんですぅぅぅぅぅっ!! も、もう大人しく棄権しますから、あ、あの例の『バスター』だけはご勘弁をぉぉぉぉぉっ!!」
身の危険をつぶさに察知し、わたくしの肩上の志木さんが、そんな狼狽しきってか細いけど妙に高い笛の音のような声で、そう懇願してきますけれども。
ワカ「ここまで来たら、ここまで。わたくしと一緒に……地の底までご一緒願いたいのですわ」
ハツ<ヒィィィィィ、曇りない笑顔で言われると20倍くらい恐ろしいよぉぉぉぉ、そして不気味谷の奥底笑顔が、既にデフォルト気味になりつつあるよ怖いよぉぉぉぉぉぉっ!!>
さんざめくハツマさんの声をバックに、既にあわわわわ、くらいしか言葉を発せなくなった志木さんの体を保持したまま、一旦わたくしはキャスター椅子から立ち上がりますと、椅子を180°回転させて、背もたれがお腹に当たるようにして、両脚は輪っかを形成している左右肘掛けの只中に各々突っ込んで跨りますのよ。
ワカ「……この対局場の構造も鑑みて! 改良なる必殺技を撃ち放ち、この戦いに華を添えますわのよ……」
ハツ<い、い、いやぁ~、うーん、どうでしょう~、えっとそれは何というか蛇足? ……みたいな意味不明? 的な……>
要らんことをのたまってきた実況さんを、わたくしは最上級のマントル級、深淵笑顔で黙らせますのよ。遂にばばあ座りでガタガタ震えるだけになったその可憐な姿を置き去りに、私はがに股になった足の爪先で何とか地面を交互に蹴り進みますの。不器用に少しづつ少しづつ、しょわあ音を響かせながら。
目指すは「階段」。この塔のような対局場のぐるりを巡る「螺旋階段」。それこそが、この「究極改良奥義」にとって不可欠な「場」であり「装置」なのですわ。
ワカ「……この『改良型=アルティメット若草s・OPPIROGE MAN 29バスター:哀・届き魔戦士』によって、不完全だった技はひとつの解へと集約される。あたかも、二重螺旋を描く、生命のスタッカートのように……」
ハツ<い、いいことを言っている体だけど、やっぱりモノホン純度高めで糖度ゼロの、それドライな狂気ィィィィィっ!! 黒服さんたちぃぃ、今度こそ止めてぇぇぇぇぇっ!!>
立ち直ったかに思えるハツマさんの言葉に、これまた我に返った風の、周りを固めていた黒スーツの男の方たちが制止しようと私のもとへ群がってきますけれど。
……もう遅いのですわ。
シギ「た、助け……お助けエヒィィく、くださイヒィぃぃぃぃ、ひ、ヒトの心が、ヒトがヒトとしてヒトらしくあろうとする心があるのならばぁぁぁぁっ!!」
ワカ「『心云々』の説明はもう何度目かなので割愛申し上げますわ。そしてわたくしは既に大脳での思考を停止していますの。許すか許さないかは……」
そう告げつつ、私は下り螺旋階段の取っ掛かりまでキャスター椅子を持ってくると、勢いよく蹴り出すのですの。遥か、深奥を目指して。
ワカ「脊髄にぃぃぃぃぃぃぃっ、きいてみろなのですわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
狂騒の空間に弾け飛んだここ一番の絶叫と共に、わたくしたちを乗せた椅子は、螺旋階段をガタガタと下り始めますのよ。