#122:轟雷かっ(あるいは、空疎/色素/敷き食う久世)
<みっ……水窪選手……? ツモアガリ、ということでしょうか……>
スポットライトの許、卓のぐるりを囲むわたくし以外の3人の面子も、そしてその周りを取り囲んでいる何万もの観衆も。
「……」
皆、一様に口を閉ざしてしまいましたのよ。途端に開けた空間に、空調らしきゴンゴンというような音が響き聞こえてきますの。あらあら、ここは大歓声に包まれるところと思っていましたのに。
にこりと音がしそうなほどの曇りないわたくしの笑顔とは真逆に、御三方の表情は怒りなのか驚愕なのか動揺なのか、三者三様に歪みまくってあそばされてますけれども。
「は、ハッタリだ、ブラフだぜこんなのはぁぁぁl!! そんな手牌でアガれるわけがねえっ!!」
わたくしの下家、志木さんとかおっしゃいましたわね……が、今まで見せていた、どこか弛緩していたかのような余裕ヅラをかなぐり捨てて、そんな剣幕でわめき始めますけど。
ハッタリでもブラフでもございませんのよ。
「……ハツマちゃんっ!! チョンボの場合の罰符は!? 『8000』、いやこいつは親だから『12000』の『4000オール払い』だろっ?」
余裕のあざとー感を前面に出していた塗魚さんまでもが、そんな必死の形相。どれだけ想定の範囲外だったのでしょう、このアガリは。
「落ち着け。……DEPでしくじれば、水窪はエビぞる電流を喰らってそこまでだ。点数云々の話じゃあない」
対面の島大佐さんだけは、先ほどまでの落ち着きを保ってらっしゃいますけど。でもしくじるなんてこと。
……あり得ませんのよ。
わたくしは晒した手牌を丁寧に「数字順」に並べますの。殊更ゆっくりと、余裕を持って。
1【自分】2【キャバリア】3【磁石】4【コッカースパニエル】5【ウェスティ】6【ダックス】7【カニ】8【グランアングロ】
犬5匹に、残りは脈絡皆目なさそうな3つ。ですけれども、そんなことは先ほどから申し上げている通り、関係ないのですわよ? わたくしは笑みを深めながら、DEPの着手に進みますの。
「……『カニ鍋をしていたら、磁石に引き寄せられる砂鉄のように、飼っていたキャバリア、コッカースパニエル、ウェスティ、ミニチュアダックス、グランアングロが殺到しまして、自分が食べる分が無くなってしまったっていう、そんなお話』」
この滅裂さ、ですけど。
「ば、バカかてめえは!? そんなDEP、通るわけねえっ!! そもそも犬がカニを食べるかっつぅんだ!!」
志木さん、御説ごもっともですけれど、残念ながら通りますのよ。
なぜならわたくしは未来の若草なのですもの。未来の事が嘘か本当かなんて。
……誰にも判別できないのですわ。当の当事者である、わたくしにも。
先刻までとはうって変わった怒号が渦巻く場になりましたけれど、そんな中でも、ぴぽん、というDEP成立を示すチャイムは確かに鳴り響きましたの。
それではさよならですわ、みなさん。