#121:再臨かっ(あるいは、だいじょうぶ、いつだってmyエンジェル)
カンと、即座に意識が巡ってきたのですわ。牌山に手を伸ばしているという、随分中途半端な姿勢のまま。
随分と久方ぶりのシャバかと思いましたけれど、実際はそう何時間も経っているというわけでもないのですのよ。
わたくし、ずっと俯瞰するかのように若草の活躍を上空らへんから見ていましたから、分かりますの。分かりますのよ。時折、助言めいた世迷言を吐きつつも見守ってきましたもの。
わたくしの方から言えることはですね……そうですね……
……彼女は大丈夫。彼女なら、もう大丈夫。それに尽きますわ。
はっきり乗り越えたと実感していますのよ。澱のように内部に滞っていた諸々は、今、それぞれの「世代人格」として、表出して、現出して、外の世界に発散されましたのですから……
今の若草は、何にもとらわれない、ニュートラルな若草。
今の若草ならば、6年に一度の「選定」をきっときっちり乗り越えるはずなのですわ。そして、作られた「わたくし」なんかよりも、より素晴らしい女性へと、「成長」をしていくのですのよ。そうに決まっているのですの。
わたくしは手を伸ばしたまま、しばしその不安定な体勢で動作を止めていましたのですけれど、殊更に深い呼吸をしますのよ。
それに対し、何かしらの変化を目ざとく感じ取ったらしい、卓を囲む他の3名の方がわたくしの方をうかがってきますのですけど。
「……」
その視線に対しては、涼やかな微笑みをお返しいたしますですのよ。途端に目を逸らしガタガタ震え出した面々を尻目に、わたくしは華麗な仕草で、ツモ牌を手牌に持ってきますの。
【グランアングロフランセブランエオランジュ】(赤:8)
あらあら、割とマイナー目の犬種も網羅されていますのですね。まあいかにマイナーであろうと、このわたくしにとっては全くもって関係は無いのですけれども。
わたくしは優雅な微笑を絶やさぬまま、すうう、とまた息を吸い込んでから、皆々様に最後通牒を言い渡すのですの。あくまで華麗に。
「ツモ、ですわ」
途端に怪訝100%の顔つきで、わたくしの顔を無遠慮ぎみにガン見してこられる対局者の御三方。
まさか、この腐れツモでアガリなど、考えもよらなかったというような間抜けなお顔たちですのよ。かっちり仕込んだつもりなのでしょうけれど。
……甘ぇえんだよ、でございますわ。
わたくしは余裕の笑みを浮かべたまま、多分にもったいつけて、自分の手牌を倒していきますの。
3枚、4枚、5枚、6枚……7枚、……そして8枚。
倒す牌が増えるごとに、驚愕の度合いが増していく御三方のご尊顔を拝見しつつも、
「……」
わたくしの優雅な笑みは、更なる名状しがたき迫力を抱き込みながら、場の皆々様方に、これでもかのプレッシャーを放っていくのですのよ。