#120:回転かっ(あるいは、廻り運び紡ぐ/生のスタッカート)
シギ、大佐、塗魚の3人が3人共、打ち出した牌は「犬種」。
ほほう……ここまで露骨だと逆に清々しい……私が繰り出している先ほどからのポーカーフェイスは最早、だらり顔筋が重力に負けて下がり落ちていなくもないけど。
これはもう異常事態だと、声を荒げる良識者はいないのか! と叫び出したくなる。いやそれは嘘だ。所詮このスタジアムを埋める観客たちも、ある程度「判った」上でこの「コンテスト」……「対局」を観戦しているのだろうから。そしてやっぱり何らかBETしているだろうことは、度外れた熱狂感で伺えようもする。
周り全て敵。そう思っていた方が、却って気は楽だ。どの道そうやって生きてもきたわけだしね。
「……」
と、先ほどから達観しっぱなしの私だったが、楽観できるほどの状況ではないってことは、大脳も脊髄も充分認識している。
そうこうしている内に、私のツモ番が回って来ていた。ツモる動作を見せない私に、鳴くの? みたいに怪訝そうに見てくる、上家のくるくる銀髪―塗魚が、色々取っ払ったら多分相当可愛らしいんだろう顔を向けてくるのに合わせ、私はにんまりと意味不明の笑みを返してみせる。のけぞる小さく整った顔。いや威嚇しとる場合でもない。
……何とか、たどり着いた。
ここまで到達したのならば、後は残るバクチに身を委ねるだけだ。
バクチ……いや、自分の手で、自分の未来を掴み取るだけだ。
私は笑みを浮かべたまま、牌山に手を伸ばしていく。殊更に、ゆっくりと。
これから撃ち放つDEPは、断言すると「イカサマ」だ。より正確に言うと、「イカサマかました上でのさらにのイカサマ」。正々堂々という意味では、やっちゃあならないコトなのかも知れない。
それでも、撃つ。
逃げ惑うだけだった「私」の代わりに、この戦いの諸々を引き受けてくれた「姐やん」に、報いるために。
鼻から大きく息を吸い込む。追い込まれた私が、今の「私」と歩み寄るために編み出した奥義、
……「リボルビック=チャネラー」を、再び今ここに、発動する……っ!!
意識がちょっと斜め上方にトビかけ、白目気味となった私の脳裏に、いや脊髄裏に? 浮かぶ「拳銃」の映像。
それは中央辺りでぱきりと二つに割れると、ごくごく自然に自動に、その弾倉を回転させていく。
ここからだ。今まではランダムに私の中の「世代人格」が選ばれ、それが表出していたわけだけど、ランダムに任せるほど今の私は悠長な状況に居るわけでもない。
運命。それはもう自分で掴み取るものだ。
私はその像の真っただ中に、自分の「右手」のそれを割り込ませていく。
「……」
回転していた弾倉を、その「手」で掴み止める。そして、
「36」と弾底に刻まれた弾丸を、真上にくるようセットする。これが最初の「イカサマ」。呼び出すのは、貴女しかいないから。
……「ヒマリアⅩⅩⅩⅥ」、いやさ、強く凛々しく美しいワカクサ姐やん。
……あなたの手番ですのよ。