#117:周期かっ(あるいは、思考は/輝きの/ルテチア)
刹那、走る……っ!! 水窪に圧倒的悪寒……っ!!
そんなモノローグはいいか。ともかく塗魚が放った今しがたのノーガードな捨て牌に、何らかの危険のニオイみたいなものを感じ取ったのは確かだ。
これまでの人生でも腹パンパンになるほどに煮え湯を飲まされてきた私だけど、その煮え湯ドランカーたちの最終到達場みたいなこの「祭典」においても、数多の風味を醸し出すカラフルな煮え汁を体中の穴という穴から注ぎ込まれてもきていたわけであって、要は今の私の危機察知能力は伊達やな↓い↑ということに他ならない。
それに、それにだ。ここでアガっても、せいぜい2000の手にしかならない。しかもロンアガリは塗魚の「16000」と割と豊富な点数を「14000」に下げることしか出来ない。
私はそれで「4100」まで回復はするけど、相変わらずのトビ圏内であることは変わりないわけで、手牌の数が減ってしまうこと、それによって以後、どうすることも出来なくなることの方がやばいのでわ、と思ってしまう。
何しろただでさえ冴えない牌姿に、【ウェスティ】【ダックス】というオタ風級の利用度薄ーな二巨頭が鎮座しているのが私の手牌だ。
【デート】……そのカンチャンずっぽし的な牌、それ欲しい……それにまつわるダメなエピソードならば、デッキを構築出来うるほどに切るカードを持ち合わせているというのに……っ!!
私は痛切さの余り、真顔なのかポーカーフェイスなのか分からない虚脱した表情のまま、しかし鋼の意志で牌を倒すことを自制し、そのまま右手を塗魚の前の山に伸ばしていく。
賭ける。次の私の引きに。そろそろ来てもいいはずよね? たったひと牌で、地を割り天に昇るほどの、起死回生な鬼引きを……っ!!
意志を込め、覚悟を決めて、私はツモってくる。一瞬目を閉じて祈りながら。
【イングリッシュ=コッカースパニエル】……カースパニエル……パニエル……ニエル……
残響を伴いつつも絶望的な字面が確かに私の網膜に焼き付いてくる。犬の、犬の種類が書かれた牌しか引いてこれねぇぇぇ……っ!! ぐにゃりと視界が歪む。
いよいよ切羽詰まらされた私だが、【パニエル】の色・数字は「赤:7」。【ウェスティ】「赤:5」と、【ダックス】「赤:6」と、色も数字も連なった。そこだけ見れば絶好の引きなんだけどねー、それを生かす方策が全くもって浮かばない、てか皆無的に無い。
いや待てよ。策が、無いわけじゃあ無かった。危険極まりないのでとっくに封印していた例のあの「世代人格移行技」こと「リボルビック=チャネラー」……それをうまく使えば、あるいは。
私の脳内で、急速に実像を成していくその「一発逆転技」だけど、それを為すには「6分の1」の橋を1回、渡り切らなければならない。
引けるか? 今の私で。いや、でももうそれに賭けるしか手は無い。このクソのような配牌・ツモをも64000級に昇華せしめる掟破りの技を、何としてでも成しえるしか他に道は無いわけで。
それ以前に、まずは差し当ってのトビ回避だ。安手の連続アガリ……ついさっきまでは悪手と思われたその作戦だけど、ここに来て、逆転の発想が浮かんで来た。
何はともあれ、やるしかない。
急速に集中力が増してきた私は、ぐいと自分の手牌を見つめる。




