#115:顕在かっ(あるいは、六分の一分儀の純情な言動)
「『四順子同色』……は、8000」
にやり顔で左手を差し出してくる、ソバージュ女のしてやったりな声も、少し遠くに聴こえた。ピポン、みたいな間の抜けたチャイムの音が鳴ったけど、それはどうやら今のDEPが成立したことを告げる合図のようであった。そしてその瞬間、
「……!!」
あもるふぁす、みたいな声を上げさせられ、私の背筋はぴきゅんと伸ばされてしまう。尻から駆け上がるような衝撃が脊椎を伝わってくる。
つーか、「電撃」もありかよ、そういう大切な説明だけが抜け落ちてなかったかぁぁぁぁっ!?
全・毛根が収縮している感触を感じている……怒髪天衝く状態を、いま正に実体感してしまった私だったが、相手は元老だ。そのぐらいのアンフェアさは警戒しておくべきだった。今のは、はっきり私の失態。それは認める。認めるけど……そのちまちました工作ゴトがぁ、てめえらを逆に追い込んでいるってことをぉ、この後、存 分 に 思 い 知 ら せ て や る……
卓上で、水窪選手、志木選手に8000点をお支払いくださいっ、みたいに可愛く告げて来た、ちいちゃなハツマの像を、不気味谷・深淵の表情のまま、がしりと掴み上げてみる。実際は虚空を掴んだに過ぎなかったけど、何故か、私の手の中に納まったハツマはガタガタ震えながら、全身を硬直させるのであった。
<はぎぃぃぃこわいぃぃぃぃぃぃっ!! マリアナがチャレンジャっているよこわいよぉぉぉぉぉぉっ!!>
そんなハツマの絶叫をバックに、しかし私はこの不用意な一打で、一気にのっぴきならない状況へと追い込まれてしまったことを自認する。
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南:シマ :赤:20200
西:トザカナ :黒:16000
北:ミズクボ :緑: 2100
東:シギ :紫:12000
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へこんでいたシギが浮上、代わりに私が先刻までのシギの約倍くらいのトビかけ具合になっていることを、電光掲示板にご丁寧に不要な立体的数字で表示されているのを見て、確認させられてしまうのだけれど。
やっばぁぁぁぁ、次に満貫ツモられたら瀕死というか、ギリ零点、そして振り込んだのなら2000でもトぶ(一本場が発生するらしいから。ってそれも初耳だけど)。
<以降は、いちばん直近にアガった方が『親』となり続けますっ!! そして和了した方から、再びツモっての再開となりますので!! お気をつけを!!>
気を取り直したかのようなハツマの解説がつくけど、下家に振り込むという最悪を犯した私は、次の自分の手番が来るまでに、計三名のツモを凌がなくてはならないわけで。それはもう、絶対無理な絶体絶命な気がするのだけれど。あっさりアウト、終わる時ってのは案外そんなもんかも知れない。
「……」
いよいよ覚悟を決めた私だが、いや待てよ、まだ生き残りへのロープは垂れ下がっている。
……目には目を、ロンにはロンを。
相手の捨牌で何でもいいからとにかくアガれば、自分に手番と親番を引き寄せてくることが出来る……っ!!
親のシギがツモらないことを祈りつつ、私は、その打牌に全・集中力を傾ける。どうか私の塩配牌と融合して、いい感じのDEPに仕上げられますようにと……っ!!