#114:霹靂かっ(あるいは、プリズナー/アンダーザ/ブルースカイ)
……捨て牌はどうしよう。というかこの状況は一体何なんだろう……
いやもう、この状況にのめり込むしか無い。
はっきりの不要牌である【ウェスティ】は「赤:5」なんだけど、今しがたツモってきた【ミニチュアダックス】は「赤:6」。うーん、色同じの両面搭子が出来上がってしまっている。けど、この二つを生かすことは私には出来そうもない……
しかし。しかしよ。何かその犬的なものを抱え込んだDEPをこしらえること、それは可能だろうか。
大前提として「嘘は御法度」という鉄の掟はある。それに逆らえば、つまり私らの身体に仕込まれた「嘘発見機」に感知されてしまうと、瞬間、全身がエビ反るレベルの電流が流されることも、勿論把握している。そしてそこで失格となってしまうことも。
だけど、前々戦での、たばかり的な手筋、それは通った。たまたま運が良かっただけなのかも知れないけど、とにかく、日本語の曖昧さ、多義性を駆使すれば、「嘘をつかずに実体験とは異なるDEPを放てる」という可能性はあるってこと。
ならば……ならば。
ここは【ダックス】は手の内に収めるか。「いぬ国士」を狙うってわけじゃあないけど、何か……起死回生のDEPが舞い降りてくるかも知れない。そのための、投資だ。
「……」
私は熟慮の末、【六本木】(青:6)を外す。意外に私に縁の無い街だし、手牌に青が少ないからという真っ当な理由もある。さあ、ここからどう役作りをしていくか。そんな事を考えていた、正にその時だった。
「ロン」
私の右手、下家のソバージュ、シギが唐突にそんな発声をしてきた。え?
そしてそのまま、ばらばらと手牌の内の何枚かを倒してきたけど。え? 他家から当たれんの?
【男】【失恋】【ハイヒール】
晒した3枚は、3枚ともに、青い。いやな予感が私の脊髄あたりを這い上ってくるけど。
「……『夜景巻くヒルズの屋上っていう最高レベルのシチュで、気になってた年下のコに告白ってみたものの、『シギさんは年の離れた姉としか見れなくて……』みたいなその形容詞はいらんだろ的な言葉と共に見事玉砕した挙句、ショックで後ずさった瞬間、デッキの隙間に両ヒールを挟まれ折り取られたけど、何かもうヒトに助けられるとか、そういうふれあい的なものすら嫌になってたから、爪先立ちのまま家路までを歩き通したっていう、そんな失恋話』」
……こいつ、見かけによらず、やる……っ!! そしてそのDEPは、悲しすぎて心臓弱い人なら卒倒しそうなほどの破壊力だ。
いや、そんな事を考えている場合じゃない。その矛先は、他ならぬ私に向けられているわけで。