#113:駄犬かっ(あるいは、わんだふるな101の食い入る約束)
「親」である大佐の打牌から、一局目が始まった。どでか軍帽の下の小さく整った顔を少し思案気に傾けている。改めて相対してみると萌え度高いな! さっきの「格闘」で見せていたド迫力の戦闘モードから一転、今は「静」の膜を被っているかのようだ。
しなやかで細い指から打ち出された、その第一打牌は【雪】。
ええー、いきなり利用度高そうな奴から捨てて来てるふぅぅ、と、私はいきなりドラ切りをされたようなリアクションを取りそうになるけど、いやいや平常心平常心だ。というかそういや、このキテレツ対局にも「ドラ」は存在してた。
「……」
自分の割った山の残り。左から三つ目の上段牌がオモテを向けられている。そこも「通常麻雀」と同じなんだけど、私は改めてそちらに目を向け、露わにされている豆粒のような文字をいま一度視認してみる。
……【シェットランド・シープドッグ】。
冗談かと思ったが、私の眼前にあるので何回もガン見確認してた。ので間違いは無い。
その【シェルティ(簡略化)】がよしんばドラ表示牌だとして、肝心のドラは一体なんだっつうのよ。いやそもそも私の目に映るのだけで既に「犬種牌」が2種あるのが、壮大な何で感を醸してくるわけで。「いぬ麻雀」か何かかこれ? いやよしんばそうだったとして、どういう役があるとでも言うの?
まあ落ち着け私。「字牌」みたいなものと考えればいいのかも。使い道は低いけど、仮に犬DEPに豊富な者がいたとしたら、それは役満級の必要牌と成り得る。そんな奴おるかは知らんけど。いやそもそも現況を鑑みて、
……【ウエスティ】、もしかしてドラなのかしら?
脳の演算能力を多分に無駄なことへと費やしている確かな手ごたえを感じつつも、対局は静かに続いているようで。
「……」
私の左手。南家の塗魚は何かリラックスして、自分のペースを取り戻せているようだ。くるんくるんした銀色の蚊取り線香状の髪をふるると軽く揺らすと、大佐の方をちらと見てからツモ山に手を伸ばす。
改めて見ると、こいつも結構小悪魔的な萌えポイントを熟知した使い手のようだ。髪型を除いてイメ―ジしたら、目はぱっちりだし、鼻は小さくちょっと上向きだし、口は作ってはいるんだけど、あざといアヒル口なわけで。年も若いし、それだけに何でこのダメ関連にどっぷり関わっていそうなの? という疑問は晴れないんだけれど。
大佐との確執も謎だ。「造反」……ま、組織にはいろいろあるんだろうけど、あんたもう孤立無援じゃないのよ、と、自分を顧みない心配を思わずしそうになり、慌てて自分の思考を押し留める。やばいこれ、術中?
そんなどうでもいい葛藤を尻目に、ツモった塗魚は、自分の手牌から一枚を場に打ち付けた。
【スポーツ】。
おいおいおいおい、それちょうだいよぉぉぉ。そんな「概念」的な奴、使い道豊富過ぎんでしょうがぁぁぁぁ、との物欲し顔を何とか顔筋を操って抑え込む私。こいつら……配牌そんないいの? それとも異形の手筋なの?
とにかく、いきなりごっつい手をアガられなくて良かったとは思う。私の手ははっきり遅そうだから。けど、たったひとつの有効牌で、ノミ手が純チャン三色へと昇華することだってあるはず! ここ一番、引いてこぉぉぉぉぉい!
力を込めて、盲牌気味に親指の腹を擦りつけながら牌を持ってくる。まあ触っても皆目わからないんだけれどね。いやそこはどうでもいい。
ぐっ、と意気込んでその牌を掌の内で見る。
……【ミニチュアダックスフンド】。
ぶん投げたくなる気持ちを抑えて、震える指先でその牌を手牌に一旦は収める。
やっぱ「いぬ麻雀」だこれ。完全ネコ派の私は、よく言えばポーカーフェイスの完全真顔へと移行しつつも、もう「いぬ国士無双」を狙うしかないような状況に陥っていることを悟り始めている。