#112:神域かっ(あるいは、少女はいつも/誤ロン/嵩サム/悲アイズ)
ルール説明を兼ねたエキシビジョン的なものは終結した。しかし、
こんなにも複雑怪奇なルールを以て、どうこの場を収めていくのか、まったくもって判らないまま、遂に本対局は始まるわけで。
陣営的には、「正統元老」の島大佐とシギ。「造反元老」最後の一人、塗魚。そしてどこにも属さない私が一人。
通常麻雀ならば、「正統」がおヒキをやれば圧勝する感じだけれど、これはそんな通しとかが通用しないというか必要ないルールってことだけは分かる。
てことは、自分がトバないように、何とか手役を作って、いいタイミングでアガるというのを繰り返す、しかないのでは。そのアガりどころの駆け引き、それが肝要と私は見た。
「……」
今回の対局場は結構な高み(地上10mくらい)にあるため、より、観客席のアレな観客たちとの距離が近い。野太い歓声が、特に大佐と塗魚に集中して送られているけど。
あと私。私にもそれなりに名前コールが入ったりもしてて、はっきり痛し痒しな心境である。まあ、そんな観客たちからも割とスルーされがちのシギは、心なしかソバージュの張り出しも収縮気味で、真顔で無駄に点棒を確認したりしてるのが見ちゃいられないけど。
とにかく、始まる。問答無用のデスマッチが。そしてもうこの勝負に勝って2億を得るということしか、私の今の未来予想図には無い……っ!!
<それではっ!! 決勝第三戦の開始です!!>
いまだ卓上にその像を居座らせている実況ハツマのいつもながらの華麗な仕切りによって、この謎対局の火蓋は切って落とされたのであった……
いや、俯瞰してる場合じゃない。当事者当事者。集中よ。私は鼻から吸い込んだ酸素を、直に大脳に届かせるようなイメージで、深い呼吸を心がける。
持ち点の多寡で起家となった大佐が卓上のボタンを押すと、ギィカシュッという、駆動音と牌同士が揺れて軽く打ち鳴らされる音を響かせながら、二段に積まれた牌山が、我々4名の各々の前に姿を現す。
<東一局>
そんな場の表示が為されるけど、アガっても場は流れないまでも、山をツモりきったら流局と、そんな感じになるのだろうか。そこまで長引くことって考えられるのだろうか。
いやいや、そんなこと考えない考えない。一気に決める。それだけ。
「……」
サイコロの出目は「7」。大佐の対面の私が自山を右から7トンで区切ると、大佐は流れるような所作で、その横の4牌を、ちっちゃい体型の割には細く長い指で掴むと、自分の手元に持っていく。
手牌は8枚スタートと言ってたから、二回りして配牌はそれでおしまい。いいの来ててくれよ……との願いを込めながら、配牌一気に見たい派の私は、伏せたまま一列に並べて置いていた8枚をオープンする。
【自分】【カニ】【磁石】【六本木】【絵】【恥】【萌】【ウエストハイランドホワイトテリア】
あっるぇ~、豆粒のような字で、ちょっと前に流行った犬種までもがお題として組み込まれてるぅ~。
【自分】【恥】【萌】などの好配牌に目が行ってしまうが、残念ながらそれらはそれぞれ色も違うし、数字も連ならない。そんなゴミ手で上がっても意味ないってことは把握している。
でも【磁石】とか【ウェスティ(簡略化)】をどう絡ませいと? はっきり不要牌と思われるそれらだが、次にいいのが来る保証もないし、ツモった奴をいきなりDEPに昇華させるには、速攻でその新お題に対応する必要がある。
……かなりの頭脳戦だ。
それよりも、配牌だけにこれだけの描写を費してしまうことに、先行きの見えなさという闇に降り立ったようなモヤモヤとした不安が沸き起こっていたりもする。いや、それは私が気にすることではないけど。