#109:雀鬼かっ(あるいは、テンチーレン/未開の彼方)
<ルールの説明をいたしますっ!!>
見た目通りのいい具合のクッション性に、これうちにも欲しいな、みたいに妙にリラックスしている私が着座するのを待って、実況ハツマの説明が開始される。毎度のことながら、絶妙の仕切り感。
とは言え、目の前のそれは、見た目はそのまま雀卓なわけで、緑色のラシャ面の中央にはプラスチックのカバーに覆われた赤白のサイコロが見え、その正方形部を囲うようにして、既にベージュ色の背を上に向けた牌山が四つ、二段に積まれている。
……麻雀しながらDEPを撃ち合うとか、そういうこと? 「格闘」が今回絡まないことは分かったけど、いや絡ませなくていいんだ、とも思ったけど、それはまあ運営が考えることだからどうでもいい。
私としては、麻雀に関してはそれほど得意ではないということだけが懸念材料であるわけで。以前、上司らに3万円ほどカモられたことを思い出し、再び不気味の谷へ滑落していきそうになる表情を、何とか堪え留める。
<……実際に、エキシビジョンというかたちでやってみましょう! その方が理解も早いですしね>
ぽこん、という間抜けが音が卓上に響いたかと思うや、ハツマの小さなビジョンが、サイコロ天板の上にいきなり現れる。白いミニワンピースに、頭にはごついヘッドセットを付けた出で立ちだったが、不思議とそれが調和して似合っている。さすが。こいつの引きつける求心的な何かだけには抗えそうもない。
言われるがまま、「親」と指名された私の左隣のシギが、サイコロ装置のボタンを押す。出目は「7」。自分の所の山を区切って四枚の牌を自分の所まで持ってくるシギ。手つきが何か、やり慣れている感。
<あっと、手牌は『8枚』でストップです。ここがまず普通の麻雀と異なりますね。まあ、麻雀の体裁を取ってはいるものの、ほぼほぼ別物なので、そこはまずご認識を、という感じです>
流れるような仕切りのハツマに促されるように、手元に「8枚」の牌を立てる、私含めた対局者四名。
「……」
しかし、オモテ面を自分側に向けたところ、「ほぼほぼ別物」と言われていたことが、瞬時に納得できた。
【恥】【赤】【グロ】【涙】【ヅラ】【昆虫】【歴史】【慟哭】
カオスな配牌が、眼前に展開していた。いやいやいやいや、何これ?
<手番になったら、山から一枚づつツモるところは同じです!! そして手牌をよく吟味して選択したのならば!! その『ワード』を組み込んだ『DEP』を撃ち放つのであります!!>
ハツマが珍しくそんな興奮気味でこちらをも煽ってくるのだけれど。つまり「お題」に沿ってのDEPをその場その場でひり出さなきゃいけないわけだ。
こりゃ結構しんどいぞ? と、私のやけに理解の早くなった頭脳が、この困難さを瞬時に把握し始めている。