#108:煩悩かっ(あるいは、対人愉悦ヘルツォーク)
……悟ったかのように、覚醒したかのように思えた私だったが、しかしそんな穏便終結を、このダメ祭典がおいそれと黙認するわけは無くて。
<『決勝第三戦』はっ!! 『DEP戯雀:王』……!!>
うーん、想像の奥面やや左くらいを突いてきたその実況ハツマがのたまったその試合形式名を鼓膜でかろうじて受け止めた私は、眼輪筋から力が抜け落ちていくように真顔に移行しつつある。
大歓声に出迎えられた私を待っていたのは、地上3階くらいはありそうな高さの、円筒状の「対局場」であった。見上げる高さであること以外はそこまで想像の網の目をくぐってくるほどのもんでは無かったのだけれど。
係の黒服に促されて、その「円筒」のぐるりを巡る螺旋階段を登らされて頭頂に見えたものは。
「……」
白い、飾り気のない円い「脚場」に鎮座した、どう見ても全自動っぽい、麻雀卓だったわけで。ぱっと見、ラグジュアリーな感じで、結構いい機種な気がする。私も上司に連れられて行った数回しか見た経験ないけど。
深い緑色の淡い光沢を放つその卓は、座り心地よさそうな臙脂色の革張りの肘掛椅子4つに囲まれており、既に私以外の3人の対局者がそこに座っていた。
正面手前が空席のままで、おそらくここに座れということだろう。その卓に近づいていくと、お互いにガン飛ばし合ってた3人の顔が、図ったかのようにこちらを向いた。
ヘッドギアこそ外していたものの、3人とも、先ほどからの黒い全身タイツに色とりどりのプロテクターという、何というか戦闘モードの出で立ちのまま落ち着いて座っているのが、少し何だろう感を醸し出してはいるけど。
「……」
真向かいは島大佐。相変らずの小回り感の強い、馬鹿でかい軍帽を被っている。金髪はさらさらで、けったいな帽子の下から覗く小作りな顔は、かなり可愛いのに。残念系……そう分類されるだろうか。そして相変わらずの真摯な目つきが、さらなる混沌感を、その佇まいに匂わせまくっている。
「……待ってたわ。我が強敵」
向かって右。そんな掠れた声で摩訶不思議な台詞みたいなもんを放ちながらこちらを悪戯っぽい顔で見据えてきたのは、元年ソバージュこと、シギ。
縮れ毛が、ここに来てさらにその展開度合いを深めているように見える。そして目に来る光沢のある白いカチューシャ。押し出し利きそうな、意思強そうな、太い眉と目力これでもかと入っている両眼。ひん曲がるほど「笑い」の形に固定して、こちらを煽って来るような口許。
こんな攻撃的な面構えの奴に初めて出会ったよ。私と似ているところあるかもと思ったけど、いや、ここまでじゃないでしょお……と心中で否定はしてみるものの、いや、ベクトル違うだけで、攻撃性は似たようなもんかも、と思い直させられたりもする。
「ああ~、すっごいヒトが来たー」
左手の方で、片方の肘掛にしなだれかかるようにして座っていたのは、塗魚……こちらも不自然なにやにやを口許に貼り付かせている。からむのは初めてだけど、相手を小馬鹿にしつつ細かくマウントとって来ようとする姿勢は今までの動向で割りと分かっていたので無視した。銀色の螺旋を描くショートボブは、間近で見ても、やっぱどう巻いてんのかは分からない。
私はとりあえず挨拶代わりの「不気味谷」を顔面に軽く浮き上がらせてみせる。それに対し、三者三様に必死で叫びを押し殺しつつも、目は逸らさないように首の力を総動員させているのが見えて、私はとりあえずの牽制が決まったことに満足しつつ、席につく。