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(Nooooo!!)ダメ×人×間×コン×テス×ト×V★2  作者: gaction9969
最終章:ダメ息の花だけ束ねた風景
104/176

#104:篆刻かっ(あるいは、世界よ/これが/選択だ)


 隙あり、と思い、安易に組みに行った私は浅はかだった。


 渾身のパチキもヘッドギアつけたもん同士じゃ、目くらまし程度にしか作用せず。


私の体を抱きすくめるように、いや、覆いかぶさるように、センコの方もその長太い両腕をハグのように伸ばしてきた。いやハグじゃなくて、ハッグだ。


 両差しに移ろうとしていた私だったが、両肩にえらい圧力を感じ、さらには腕の稼働までもが止められてしまう。ごおお、締め付けられてるぅぅぅぅぅ。


 かんぬき……手の握力関係ない技だ。まずい、このまま肩極められた状態で、場外へと投げ落とされたら……もがくもののしかし、微動だにしないわけで。ん? 尾藤谷ビドウダニ? あれ偽名だったのか。


水窪みずくぼの……おんしの境遇、しかと聞き申した。だがそれだけで、不幸話だけでは、このダメを勝ち抜くことは出来ん」


 距離15cm、くらい。喜悦の表情に歪んだ、そんな巨顔に迫られつつそう告げられるけど。天馬屋テマヤ……思い出した。


 「不幸話」て。私はそれほど自分が不幸だとは思っちゃいないのよ。召される覚悟は出来ていたし、それ割り切れないと「6年スパン」の人生なんて平左で送れるわけないっしょ。


「水窪の。おんしは強い。ただ恐れ迷い傷つき、自ら命を絶った我が兄者よりも強い」


 センコは相変わらず微笑んでいる。何だよ。何で私の心を抉ってくんだよ。ばかやろう。密着した状態のまま、喉奥から苦痛以外の、いや、苦痛なのかも知れないけど、知らず知らずに絶叫が迸っていた。


「ああああああああっ!! ……私はなあぁぁぁぁ! 私だってついこの間なぁぁぁぁぁっ、ビルから、屋上から! 飛び、降りようとぉぉ、したんだよぉ!! 何も、なんにも知らないくせにっ……何も、なに、な……なぁぁぁ、知ったような、口、叩くんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 叫んでいた。全てを振り払うかのように。滅裂に。


「……」


 だけれど、振り払われてくれなかった。がっしりと、その逞しい両腕は、私の体を離さないままだった。抱きとめていて、くれたままだった。でも、


「だが踏みとどまった。生きろ水窪。這いずって、苦汁に鼻下まで浸かった状態でも、生きるんぞ。わっしは、おんしのこと、昔から知っていたでごわす。同じ難病を患う兄も、おんしの事を知っていた。観ていた。だから……」


 聞いちゃあいられなかった。


「うううううるせぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 ……幼い頃、病院の多目的ホールで出会った、同い年だって言ってた、青白い顔の少年の姿を思い出していた。


「言われっ!! なくてもっ!! マモっくんの分までよぉっ!! こちとら生きるって決めてんだ!! ちょっと忘れてたくらいでぇぇぇぇぇっ、ごちゃごちゃ言ってくんじゃねぇぇぇぇぇぇっっ!!!」


 忘れかけていたその名前を出した瞬間、センコの顔が歪んだのを視認した。だけど、それは苦痛によるものですよってなことに、フォローしてやんよっ。シリアス空気をも、締めで、はぐらかし煮詰め拡散するためにもなぁぁぁぁぁっ!!


「おおおおおおおおっ!! ヨダヨダヨダヨダヨダヨダヨダヨダヨダぁぁぁぁっ!!」


 センコのぶっとい首に手を回し、渾身の首相撲へと移行する。そのまま右膝を、皿が割れんばかりに、脂肪と筋肉に覆われた腹部に撃ち込んでいく。何発も。何発も。


 頬を、滴り落ちたのは汗だ。私もセンコも、顔中を汗で膜が張るくらいにさせながら。


 抱擁と、慟哭と、拡散と。


 押し込んでいく、センコの身体を、対局場の、その端まで。そして、


「……ラ・ヨダソウ・スティアーナ(さよならよ)」


 最後の方は無抵抗で私の膝を喰らっていたセンコは、満足したかのような顔で、場外へと落下していく。


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