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母に送る。

作者: klon

本人が書いたふうにしてみました。私はまだ実家暮らしなんで(笑)読んでいただければ幸いです

母の日なんで去年僕の話を聞いてもらおうかな。盛り上がる話じゃないから、聞きたくないなら酒でも飲んで聞き流してよ。


ジャケットが手放せなかった先週が嘘のような暖かさのなか、初めて関わったプロジェクトが無事、幕を降ろした。

成功を祝し、部長のおごりで飲み屋で打ち上げがあった。

皆ある程度お酒が入って、ゲームが始まった。

なんて事ないくだらないゲームだったが、お酒が手伝って凄まじい盛り上がり様だった。

負けたら罰ゲームもあったが、一応会社の仲間ということもあるし、歌を唄ったり、デコピンだったりとソフトなものばっかりだった。


次のゲーム…とは言っても僕のせいで最後のゲームになったのだがとにかく僕は負けた。

「新人がやっとやってきました!」

囃されながら僕は立った。

「まいったなぁ…何をすれば良いですかねぇ?」

僕は部長に聞いた。

だいぶんネタも尽きてきている。

皆がん〜…と悩んでいる。

その時、ムードメーカーのMさんが口を開いた。

「そうだ、新人。お前にとって初めてのプロジェクトが成功したんだ。お袋さんに報告してみるっつうのはどうよ!なぁ!」

皆が賛成する。

さっきに比べて罰がちょっとハードになってる気が……

時間は11時半。お袋なら起きているだろう。まぁ、元々電話はするつもりだった。皆の前でしたって別に構わない。酔っ払いが出した結論だった。

すると女性のJさんが手を挙げた。酒に酔ってキャラが変わってる。

「はいは〜い!ならぁ、明日は母の日らしぃ、いつもありやとうって言うのはどうれすかぁ??」

呂律が回ってない。

またしても皆が賛成の声を上げた。

そうか。明日は母の日だったのか。プロジェクトのスパートで忘れてた。お金も無いし、こんな機会も貰ったんだ。言葉で済むならお安いご用だ。

「いいですよ」

僕は携帯を出した。歓声が沸く。

スピーカーにして、メモリから実家の番号を探し出す。

「家で一人で電話しているつもりでね!皆静にぃ!!」誰かが言った。

一気に場が静まる。


もしもし


あ、おかん?


うん、おかんやで。かず(僕の名前です)?どないしたん?


あー、実は前に言ったことあるプロジェクトがな成功して、今日一応終了してん。


ほんまかいな!いやぁ〜おかあちゃん嬉しいわぁ!!


うん、ほんでな、明日母の日やろ。


明日言うても、もう1時間きっとるやないの。


あー、まぁそうやねんけど、母の日って事やし、ありがとうって言わせてもらおかなーって思ってな……。


……。


……。




「……繋がってる?」

電話の奥の沈黙に耐え切れなくなってJさんが小さな声で聞いた。僕は声は出さず、こくりと頷いた。


鼻を啜る音が聞こえてくる。


「なぁに言ぅてんねん……おかあちゃんこそありがとうやわ」

沈黙を破ったのは涙声だった。

一瞬にして酔いが退いた。皆もそうだったと思う。

一気にしまったと思った。皆もそうだったと思う。


「……別れても定職に就かんかったお父ちゃんみたいになってほしな父ちゃんみたいになってほしない思て厳しくした部分があったけど、血を分けた子ぉやさかい自信がなかってん。今の会社に就職したて聞いてもすぐに辞めてしまうんちゃうかて心配やった。でもそないな大きい事したんやったら安心や。仕事に自信と誇りをもって、いろんな人にかわいがってもらいなさい。ほんまにありがとう、ありがとう……」


予想外の状況に涙が零れた。その姿にもらい泣きする人がいた。Jさんも泣いていたと思う。

僕はスピーカーを切り、携帯に耳を寄せた。周りはそれでも静かだった。


うん、うん。分かった……。ほな明日も早いし、切るわな。うん、来週くらいにでも帰ると思うわ。うん。そんじゃ……


僕は電話を切った。

話しだす人はいない。

耐え切れず僕から口を開いた。

「あのー……いやぁ、まさか泣かれるなんて思ってなかったですしねぇ……」

部長がゆっくり焼酎を飲んだ。

「……俺のお袋はなぁ、10年前に死んだんだ。母親にもう会えん俺にしたら、お前は俺が出来なかった事をした。いつでも言えると思った感謝の言葉がもう俺には仏壇や墓を介さなければ言えなくなっていた。たとえ携帯を介していても、直接伝わっているのがわかる。お前は……偉いなぁー。まぁ……酒に任せずに言えたらもっと良かったけどな」

部長がつけたオチに少し空気が和らいだ。


打ち上げにしては妙にほのぼのとした空気のなか解散。皆も母親を思い出したのか、カーネーションや小物を買って帰る人やメールを送るもいた。

実家に帰る日を考えつつ信号に捕まった時、肩をぽんっと叩かれた。Mさんだった。

「安心しろ、お前は皆が可愛がってやるからな。……どっかに寄ってまた酒でもと思ったけど止めるわ。お袋に怒られちまう。心配性なんだ」

ニヤリとしながら自慢のようにそう言ってまた肩をぽんぽんと叩き、街中に消えた。


僕にとって忘れそうにない母の日となった。


彼(「かず」君)が最後に言った言葉を繰り返すことになりますが、これで皆さんが母親の事を思い出していただければ嬉しいです。親に感謝しっぱなしで反抗期が来なかったくらいですから(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。突然読ませて頂きました。 母親のセリフがいいですねえ。訛りがあったりして、リアリティ出ていると思います。 賛否両論あると思いますが、「一瞬にして酔いが退いた。皆もそうだったと…
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