交渉3
ピリピリした空気はあまり好きじゃない。
会社の会議ならともかく、なんでゲームでこんなことしないといけないのだ…。
よし、ちょいとかき混ぜちゃおう。
「じゃあ私からいきますかね…。」
私から話すとは思ってなかったのか、皆が私を見つめてくる。
「私の持ってた情報は魔法に関することだけだよ。
ほら、もうポケットにすら何も入ってないよ!」
ジャケットのポケットまで裏返して見せた。
なんとも言えない沈黙が流れた…。
「あら、笑えなかったか…失礼。」
「ふざけてるのか?」
WhiteWindが問いかけてくる。
「ふざけてるよ。だってゲームじゃん。
本気でやってはいるけど、楽しむのも私は本気だ。
今だって変わらず、皆を楽しませるために本気だよ。」
「にゃはははは、確かにゲームだからこそ楽しむのは大事だにゃ。」
『猫の肉球』のマスターであるチェシャ猫が笑いながら同意してきた。
猫語か…。
若いから気にせずにやってるんだろうが、この歳で振り返ると恥ずかしくなるよなぁ…。
何年前のキャラでやったっけ…。
「まぁ、そういうことで君が強くなりたいとか、一番になりたいとか…そういう思いも理解できるよ。
その為には先の情報だけでなく、隠されたダンジョンやスキルの情報が欲しいのもわかる。
でも、もうWorldにはもう引き出しがないんだよ。
与えられるのは、第3の情報くらいだ。
期待させて悪いんだがね。」
「そうか…。」
何やら考え込んでいるWhiteWind。
参加するメリットを天秤にかけて考えているのだろうなぁ…。
そんな彼に私は考慮する案件を追加する。
「とりあえずわかってるだろうがシークレットダンジョンは1パーティー又は1連合で1回行ったら、そこにはもう誰も行けないからね。
別なシークレットにたまたま遭遇するしかないよ。
そんな情報は駆け引きには使えないよ。」
ムスッとした顔でWhiteWindは答える。
「それくらいわかってる…。」
「それならいいんだけどね…。公開する情報もなしに情報を求めるなんて、そんなことする相手ならこっちから願い下げだ。」
とはいえ約3,000に及ぶ軍勢。
彼らが仲間になったら心強い。
2位と3位のギルドだけでも、この場に集合しているギルドの30%近い人数だからな。
悩むWhiteWindを尻目にチェシャ猫が口を開いた。
「それならアチキ達はもういいにゃ。
提供する情報もにゃいし、協力する気もにゃい。」
「やっぱ、そうなりますよねー。」
彼女の言い分は当然だ。
隠された情報なんて、簡単には見つからない。
「せめて、防衛中にPKだけはしないで欲しいな。」
私の最大限の譲歩案に彼女は同意する。
「当然だにゃ。アチキ達は善良なプレイヤーだにゃ。
一時の楽しみのためにPKする気はにゃい。
やるなら正面から正々堂々とするにゃ。
首を洗って待ってるといいにゃ。」
「それで十分だよ、第3に来たときはよろしく頼む。」
「あんまり待たせて、都市ランク下げられるのも困るからにゃ。
早急に向かうから、維持するよう頼むにゃ。」
そう言い残し、颯爽とチェシャ猫は立ち去っていった。
キャラに似合わず格好いいな。
そんな彼女の後を追うように、WhiteWindも席を立った。
「俺も提供できる情報はほぼ無いな。
どうせ、あんた等には予測もついているだろうしな。
俺もこれで失礼する。
防衛の協力位はしてやるから安心しろ。」
「了解、貴重な時間を取らせて悪かったね。
第3に来たら宜しく。」
私の返答に無言でマントを翻してWhiteWindは去っていった。
あのマントは深紅のマントかな?
なかなか良い物を持ってるじゃないか。
「まぁ、ここまでは想定通りですかね?
このまま話し合いは続けますか?」
2人が消えた扉を眺めながら龍桜が皆に問いかけてくる。
そんな中、初対面から変わらず理解力の乏しそうな和也が発言した。
「予測ってなんの事だ?」
ため息が出そうだ…。
そんな彼に優しい龍桜が説明する。
「多分WhiteWindが持っている武器ですね。
作成される武器とは違った空気を纏っていました。
予測の範囲ですが、装着者に合わせて成長していく武器だと思われます。
もしかしたら、精神を宿している可能性もありますね。
作成武器とは一線を画した威力があると思われますよ。」
「じゃあ、俺の崩牙や鬼王の脚甲みたいなもんか。」
何気ない和也の発言に周囲の視線が集まる。
気圧されたのか、和也が後ずさる。
「な…、なんだよ!そんなに珍しい物でもないだろ!」
「すみませんが、一応確認のために何処でそれらを手に入れたのですか?」
腰が引けた和也に龍桜が詰め寄っていく。
「わかってんだろ?シークレットだよ!
何処で手に入ったかなんて覚えてねーよ!
たまたま街道から外れた道に向かったら見つかったとしか言えねーよ!」
さすがは多数のシークレットを見つけただけはあるな。
多分街道を歩くのに飽きて、脇の草を切りながら歩いていたら偶々見つけた可能性が高いな。
私も今度試してみよう。
そんな和也の頭をルーファスが叩く。
「そうペラペラと情報を話すんじゃありません!
どこからどんな情報が漏れるかわからないじゃないですか!
この人達は海千山千の猛者なんですよ?
まったく…。連れてこなければ良かった…。」
マスターが完全にお荷物ってどうなんだ?
うっかり話してくれれば、儲けだから話題を振ってみよう。
「それで、その武装はどんな効果があるんだ?」
私の質問に、和也は両手で口を押さえてしまった。
そんな和也を横目にルーファスが意地が悪そうな笑みを浮かべる。
「おや、Worldさんは城に引きこもってたから知らないようですね。
この情報は高く売れそうですね。」
「別に喋らなくても問題はないんだぞ?
他の参加してるギルドだってい居る。
一ヶ所くらいは情報を上げてくれる所くらいあるさ。」
生徒会の一彦君が同意するように頷いてくれる。
彼も装備しているようだ。
本気で情報戦をするなら前もって、周囲の口裏を合わせて駆け引きするべきだ。
とはいえ、人の口に戸は立てられない。
すでに攻略に噂や考察程度は流れている。
甘いのだよ。
これくらいは想定の範囲なのか、肩を竦めながらルーファスが言葉を続ける。
「まったく、変に頭が回る人の相手はやりにくいですね…。
ですが、それくらい無いとトップは張れませんかね?」
「そういう胡麻すりはいいから、話してくれないかな?」
私の追求を意に返さず、ルーファスが答えてくる。
「代わりに誰でも利用できるので構いません。
インスタントとかの情報が欲しいですね。
今後のステータスやスキルの配分の想定ができますからね。
いやぁ、先を行ってもらえるのは助かりますね。
追いかける方はロス無く行けますからね。」
あー、もう…。
こんな頭を使う会議なんて、さっさと終われ!
本日も誠にありがとうございます。
23日に夫婦で待ちわびたゲームがスタートします。
このため『だけ』に、タブレットまで買いました。
楽しみで仕方ない!!
様々な批判があるようですが…。
「そんなの関係ねー!」
すいません、古すぎました…。
(初めて見る息子たちにはバカウケ。)