詩音の反逆。
苦節数ヵ月
やっと纏まった!
長かった…。
(その間、とある京都が舞台の召喚系のゲームに嵌まってたなんて言えない。)
そんな感じで皆のレベル上げの手伝いで、数日が過ぎていった。
ギルドの皆で手分けして名前つき装備を出したりしつつ、仲間のレベルを上げていった。
お陰で全員の転職が完了した。
次点の案件だが、名前付きのアクセサリーで装備を埋めることができた。
パーティーメンバーも同様だ。
少々の職業に合わないスキルはあったが、装備してさえいれば、かなり強化されるから良い。
例えば、詠唱速度が早まるスキルが欲しがった天音はAGI上がる装備だったりする。
基礎であるステータスを上げるのは基本だな。
装備可能上限数で名前つきアクセサリーが装備出来ているのはギルドに100人もいない。
部分のみなら、ほぼ全員1個以上持っている。
やはり、世の中金だな!
ちなみに全アクセサリーを名前付きで埋めたのは、マスターやサブマスターのパーティー全員である。
他は精々、金策が上手い数十人が全アクセサリーを名前付きにすることができたくらいだ。
今後も弛まぬ努力を続けて、維持出来るよう頑張ろうと思う。
それはさておき
今夜にでも全員を次のマップへと移動させるため、現在龍桜と話し合い中である。
「ようやく全員の転職が終わって、移動できるな。」
「長いようで短い1週間でしたね。」
「次はどんなところだろうね?楽しみだな。」
そうして会話していると、扉がノックされた。
扉の前に立っていたのは、今日の昼に転職を完了させた詩音だった。
「ヤッホー、騎龍。今時間ある?」
「ん?話を聞くくらいはあるけど、どうした?」
「いや、入れてもらって悪いんだけど…。
ギルド抜けようかと思ってね。」
ん?この時点で抜けるのか?
レベルが上がったし、魔法の秘密とかもすでに解禁されたからウチに居る意味はなくなったのかな?
詩音は少数でチヤホヤされたい派だしな…。
「去るものは追わずだから、別に抜けるのは構わないが…。
何かあったか?」
「別になにもないけど、ちょっとね。」
そう言いながら、口元をニヤリと歪ませる詩音。
こういう時、絶対に何かある…。
長年の付き合いの直感だ!
「なぁ詩音。特に問題がないなら、何に転職したのか教えてくれ。
そしたら、抜けても良いぞ。」
「えっ!?い…いや、たいした職業じゃないよ!
そんな気にしなくても大丈夫だよ!」
確定!コイツなにか隠してやがる!
「有罪!
お前はそんなキャラじゃない!何年の付き合いだと思ってる!
龍桜!捕まえるぞ!」
「なにがなんだかわかりませんが、わかりました!」
「龍桜は窓を封じろ!私が組む!」
逃げられないように龍桜に窓を防がせ、私は素早く詩音に駆け寄る。
駆け寄ろうとすると、扉から一目散に逃げ出した。
ちっ、少しの距離が致命傷になったな…。
詩音の方がAGI高いし…。
「全員緊急配備!詩音を逃がすな!!」
声で周囲に周知しつつ、ギルドチャットも打ち込んでいく。
[しおん、かくほ!!]
変換してる暇はない!
「騎龍!ギルドまで使うとか本気すぎでしょ!!」
「そう言うなら、止まって話しやがれ!」
「絶対にキレるから嫌だ!」
キレるようなこと考えてるんだな!
これは逃がすわけにいかない!
「そうして話すから、ムキになって追いかけるに決まってるだろ!
絶対捕まえてやる!」
そうして声を上げながら進んでいるせいか、扉を開けて人が集まってくる。
我等が使用しているギルドハウスは通路に窓がない。
左右はメンバーが使用する部屋で埋まっている。
大声を出しながら駆け抜けていたお陰で、ワラワラと人が集まり廊下には人だかりが出来た。
「そのまま確保だ!殺さなければなにをしてもいい!」
私が大声で指示を出した瞬間…。
「くっそ…。こうなったら!!」
追い詰められた詩音の変身が始まった。
背には漆黒のマントが広がり始め、捻れた角の生えた兜がどこからともなく出現して、詩音が装備する。
それだけ確認した瞬間、私は周囲に指示を出した。
「もう、手足くらいは構わない!止めろ!」
死んだら復活位置まで飛ぶから、確保できなくなってしまうからな!
指示を出した瞬間、雨霰と魔法や遠距離攻撃が入り乱れる。
噴煙で周囲が見えなくなりそうだ。
「視界確保!」
風が送り込まれ、廊下の煙が晴れていく。
そうして見晴らしが良くなった先には、倒れ伏した悪魔のような容姿のモブ達が倒れ付しているだけだった。
「は?なに、この悪魔達…。」
倒れ伏したモブ達を眺めながら、私は思考を巡らしていく。
これは眷属召喚か?
いや、そんなの後回しだ!
ここで止まったら逃げられる!
「どっちに逃げた!」
問いながらも周囲に目を光らせる。
壁に穴が開いているのを確認し、穴の先の部屋に駆け込んでいく。
「ここはダミーの可能性がある!
周囲を警戒しろ!」
回りの皆に指示を出しつつ壁の穴を通り抜け、割れた窓を視界にいれた瞬間飛び出していく。
「オーリ!!」
室外だったら、結構強いオーリも呼び出しておく。
これで数分もせずに来るはずだろう。
飛び出しながら、着地点の周囲に視線を巡らせる。
私が送ったギルドチャットのお陰か、大抵の家には明かりが灯されて人が表へ集まっている。
「ちっ!こっちか!」
下の方に詩音の姿が確認できなかったために上空へ視線を向けると…。
漆黒のマントに身を包み捻れた角の生えた兜をかぶり、錫杖を手にした詩音が空中に浮かんでいた。
「よう、くそボケ。私を見下ろすなんて、いつの間に偉くなったんだ?」
「こえー!マジこえーよ!そっちが本性なのかよ!」
どっちも私だよ。
「ほれ、何を考えていたのか教えたら許してやる。
正直に言いな!」
「正直に言って殴ったりしない?」
「最後の通告だな。
家に押し掛けたりしないから、正直に言え。」
私の返答に真っ青になりながら詩音が返答を返してくる。
「騎龍の友人を辞めたくなったよ…。」
失礼なやつだな!