まだ帰れないの!?
帰還用と思っていた魔方陣をくぐり抜けた先は、荘厳な神殿であった。
あえていうならパルテノン神殿を真新しくして、何故か光輝くようにして、周囲には花が咲き乱れている感じの場所に出現した。
「なんじゃここはー!」
とりあえず叫ぶだけ叫んでみて、皆がちゃんと来てるか確認する。
よし、とりあえず誰もいなくなってないな…。
「父さん、ここどこ?」
「わかるわけなかろう…。まだ帰れないのか…。」
帰れると思ってくぐり抜けた先は、また別の場所でしたとか…。
マジでやめて…。
約2週間もの期間、帰れなかった女の子の何人かは泣き始めている。
「やばい…。さすがに心が折れる…。」
「騎龍さん、とりあえず何か情報を集めましょう。」
マスターの心構えができてきたのか、龍桜が前に立って神殿へと歩き始めた。
強く育ってくれたようで、おじちゃんは嬉しいよ。
それはともかく、今の精神状況ではこのような綺麗な景色も、まったく心に入ってこない。
感動も何もなく、絶望しかない…。
とりあえず、龍桜について行こう。
何でもいいから情報がほしい…。
このまま12の神殿で戦い続けるとかだったら…。
私はこのゲームを卒業する!
それだけの覚悟を持ちながら、神殿の中へ入ると天使が居た。
神々しく光って、羽が生えてたから天使と呼んだが確証はない。
その天使が口を開いた。
「ようこそ、人としての限界に到達した者達よ。
貴方達は人々を導く大いなる力を得る時がきました。
これより試練を与えます。
試練を乗り越え、人としての殻を破り、一段階上へと進化を遂げるのです。」
「えっと…。少し待ってもらえますか?相談しますので。」
龍桜が一時的に待ってもらえるように答えた。
「わかりました。幾らでも時間はあります。」
幾らでもあるんだ…。
龍桜が私たちのところへと戻ってきて訪ねてきた。
「騎龍さん、これってどういうことだと思います?」
「3次転職じゃないかな?」
「ですよね、やらないとダメなんでしょうか?」
「聞いてみてから考えよう。どれくらい時間がかかるかわからんし。」
「わかりました、その方向で聞いてみましょう。」
龍桜が天使の前に立つと、すぐに口を開いてきた。
「では、これより各人へ試練を…。」
「ちょっと待ってください!」
龍桜が口を挟む。
そうだ、そこで止めるんだ!流されてはダメだ!
「なにか?」
「いくつか質問があります。」
「はい、お伺いしましょう。」
「どれくらいの時間がかかるのですか?」
「早い人で10日ほどでしょうか?」
うん、無いわ。
この時点で龍桜が私に視線を向けてきた。
とりあえず横を向きつつ、心で叫んだ。
マスター頑張れ!!
ため息が聞こえてきたが、無視した。
「幾つかと言いましたが、他にないのですか?
他に何もないようなら、試練を…。」
「あっ、あの!」
そうだ!龍桜頑張れ!
「なんでしょうか?」
「えっと…。あぁ、そうだ。
準備のために一度戻りたいのですが可能ですか?」
「可能ですよ。
その場合レベルが100の状態まで戻ります。
そして、ここに来る前のダンジョンで獲得したアイテムは消失します。
それでも良ければ戻れますよ?」
「ホッ…。では結論を決めてきますので待ってください。」
「畏まりました。」
あっさりと引き下がる天使。
こっちもホッとする。
そうして質問を終え、龍桜が逃げ帰ってきた。
「騎龍さん!目があったのに背を向けないでくださいよ!
判断に困るじゃないですか!」
「ん?マスターだろ?それくらい決断してくれよ。」
「私の一存で10日もかかるのを決めれるわけ無いでしょうが!」
「ふむ、表面的返事と本音とドッチが聞きたい?」
「…。表用は?」
「マスターが下した判断だから、出来る限り頑張るよ!」
「本音は?」
「私だけでもどうにかして、一旦帰って準備する時間を確保する!」
「この人最低だ!」
「今ごろ気づいたか!」
私は自分と家族を守るためなら、違法の事以外はやるぞ!
頭に手をやり考えを纏めたのか、龍桜が顔をあげる。
「つまり騎龍さんは素材を失っても良いと思ってるんですね?
ということは、帰還優先なんですね?」
「さっき本音で言ったじゃん。
あのインスタントダンジョンに行ったのはタマタマだよ?
前もって行くのがわかってたら、相応の準備をするさ。」
「TーREXを始めとする、各種素材は失っても良いと思ってるんですね?」
「また行けるかはわからないけど、また行けば良いじゃん。
ここの試練だって10日かかるって言われたし、修理道具とかがもたないよ。」
すでに、職人達の修理道具は限界を迎えている。
皆の装備も、歪みが酷すぎて装備できるギリギリだ。
私なんて、TーREXに2回も半壊にされたからな。
いや、万歳アタックのせいだから、原因は自分だったな。
こんな状態では10日かかる試練を乗り越えられない。
そのような話し合いを経て、心が決まったのだろう。
龍桜が真っ直ぐに天使の元へ向かう。
「すいません、準備をしに一旦帰りたいです。」
「畏まりました。再びココに来るには、冒険者ギルドで申請すれば来れます。お帰りはアチラの陣に乗ってください。
またのお越しをお待ちいたしております。」
ギルド便利だな。
「さて、やっと帰れますね。」
龍桜が私に言ってきた。
「素材は勿体ないけど仕方ないよ。3次転職の情報が手に入っただけマシだと思おう。」
あんなに強かった恐竜の素材を使った武器や防具は魅力だが仕方ない。
ちなみに、戦斧は涙を流しながら素材に頬擦りをして別れを惜しんでいる。
クリア条件はわかったから、3次転職が終わってからまた行こうと説得した。
今更ながら思うが、あの島はレベル100以上の3次転職済み用の場所なのだと予測できる。
別な言い方をするなら、第3マップへの入り口だ。
これまで居たマップの中では、100までのダンジョンがあるから100くらいまでは上げられる。
それ以上は外に出るしかないと、今回の遭難で予測される。
リアル2週間に及ぶサバイバルは、こうして終わりを告げた。
得たものはレベル100と3次転職の情報と先々の予測だけだ。
とりあえず、ギルドハウスに帰ってゆっくり休もう。
様々な考察をするのは、すべて後回しにする。
数日くらいならゆっくり休んでも良いはずだ…。
これまで、大変だったのだから…。
本日も誠にありがとうございます。