孤島の探索
更に数日が経過した。
ここからの脱出のため、皆必死に頑張っている。
早くギルドに帰りたい思いは皆一緒だ。
中央の山を目指して歩き、まずは1日潰れた。
そこの森との境目にベースとなる家を作り、2日目が潰れる。
ログインできる人はできる限りログインして、周辺探索を頑張ってくれている。
私は仕事があるから平日は1日分しか参加できない。
申し訳ないと謝るが、リアルが大事だから仕方ないですよ。と言ってくれた。
とてもありがたい。
そうして、ベースが出来上がり周囲の探検が始まる。
普通の恐竜相手なら1パーティーで討伐できる程度にまで成長できた。
ちなみにTーREX相手には、未だに正面から勝てない。
接近するだけで継続ダメージが入るから、ヒーラーのMPが持たないのだ。
遠距離で倒すにしても、時間が掛かるし止められないから無理だ。
いずれは勝てるようになりたい…。
連続でログインできる週末になり、そこでインする人間の割合も増えるので、探索を大幅に広げていくことにする。
今日はキリングドールのパーティーと合同で行動する予定だ。
相手が強いから、複数のパーティーで行動するように決まってるからな。
「今日辺りから、山を探索しようかね?」
「了解っす。」
簡単な探索予定を皆で計画し、行動に移す。
上陸地点を南として考えて、島を4分割で考えて探索を進めていった。
東と西は特に発見できなかった。
まだ探索してないが、北も何もないだろう。あるとしたら、やはり中央の山だよな…。
そのように考えて、探索を進めていく。
中央の山では更に相手のレベルが上がり、プテラノドン等が空から襲ってきた。
マジで勘弁してほしい…。火球を吐くとか、どうなってんだ?
流石ゲーム。
どうにかこうにか、人海戦術で出会った相手を倒していく。
戦斧が修理の材料が足りなくなりそうだと嘆いていた…。
早く出ないと、二度と出れなくなりそうだ…。
慣れた相手なら、どこをどう切れば良いのか解るから、消耗も少しは減らせるんだが仕方ない。
そうこうして、皆と協力しながら山を上っていく。
皆で向かっている山の中央から煙が出ているのが目にはいる。
火山なのだろうか?噴火したら嫌だなぁ…。
「スン…。ん?」
しばらく歩いていると、ウッドが訝しげな声をあげる。
「どうした?ウッド?」
「いや、なんか獣のような人間のような臭いが…。」
「んー?どっちから?」
「こっちっす。」
何でもいいから、手がかりを求めて進んでいく。
向かった先には、天然の洞窟があった。
「あそこの中?」
「そうっすね。」
おもむろに歩いていき、洞窟の正面に差し掛かろうというとき、先頭を歩いていたウッドに突然複数の影が襲いかかった。
「なっ!気配なんてなかったはずなのに!」
そんな声をあげるウッドを一瞬にして洞窟へと押し込むように連れていく影。
その連れて行かれるウッドを追わせないようにするためか、毛皮を被った複数の原始人が数名姿を表す。
「ちっ、マジかよ!」
あっという間過ぎて、追いかけようがなかった。失敗したな…。
「騎龍さーん!」
洞窟の奥へと引きずられながら、段々と遠くなっていくウッドの悲痛な声が響き渡る声。
それを遮り、追わせない為に前に出てくる原始人。
計画的犯行だな…。早急に倒して、追わなけれならないな。
「騎龍さん、私が追います!」
そのような場面が目の前で展開されたせいか、焦りを滲ませた声でキリングドールが声をあげる。
「ダメだ!1対多数になって勝てるとは思えん!」
「でも!」
「できる限り早急に倒して、全員で安全に向かうんだ!2次災害になったら困る!」
「くっ、解りました…。」
納得してなくても、この行動は変えられない。
原始人達は石でできた原始的な槍を振るって、時間稼ぎのような動きをしてくる。
「ちっ、中途半端な知恵を持ちやがって…。」
様々なパターンが頭を駆け巡る。こういうパターンだと、こうするべきだろうか?
色々と考えが思い浮かぶ中、一番確実そうな行動をとる。
私が皆より数歩だけ前に出て攻撃するふりをして、囮の役割を勤める。
そうすると、予想通り私に攻撃しようと原住民が全員で取り囲んできた。
「騎龍さん!」
相談せずに行動をしたため、キリングドールが焦った声をあげてくるが、返事してる余裕はない。
私はスイッチを切り替えて、意識の加速状態に持っていく。
周囲の音が間延びしていき、1段階低い音へと聞こえるようになっていく。
素早く突き出される石槍を装備によって滑らせ、体捌きでかわし、意図的に石槍を纏めて押さえ込みつつ、すぐさまその場に伏せる。
その瞬間暴風のような一撃が通りすぎ、原始人が吹き飛ばされていく。
吹き飛ばしたのはもちろん、アスタールの攻撃だ。
流石すぎる。
「ここが勝機!すぐさまトドメをさせ!」
吹き飛ばされ、転がって る原住民に剣や魔法が降り注ぐ。
ほどなく、倒しきることができる。
「ふう、ひと安心だな。よし、すぐにウッドを追うぞ!」
駆けていると、キリングドールが焦っているのか、皆を置いて駆け抜けていこうとする。
「全隊止まれ!キリングドール、落ち着け!」
「これが落ち着けますか!」
「ふむ、それはよくわかるが…。君は女性なの、後ろから追いかけなさい。」
「ですが、皆を守るサブマスターです!」
「そんな理論なら、それは俺が優先だよ。PTのリーダーでサブマスターだからな。」
「くっ…。わかりました…。」
心では納得してないのか、歯噛みしている。
「少しは考えて行動するように!キリングドールが拐われて乱暴される方が、よほど困るよ。」
「システム上、それは不可能です。」
変なとこで冷静だな。まぁ、それはそうなんだが…。
「それは置いといて、とりあえず追いかけよう。足並みは揃えること!」
「はい…。」
一直線の洞窟を駆け抜けていく。
しばらく走り続けていると、洞窟を抜けて広々とした空間に出た。
「うへぇ、熱そうだ…。」
そこにはアニメでちょくちょく見かける光景が広がっていた。
「下に溶岩がある洞窟とかベタだな。」
広い空間には壁沿いに螺旋を描くようにスロープが刻まれている。
そのまま進むと、溶岩の海の真ん中にある祭壇のような場所へと続いている。
いつも疑問に思うんだが、どうなってんだ?溶けないのか?熱くないのか?
ご都合主義って、素晴らしいな。
それは置いといて、今のところはまだなにも動きがないようだ。
拐われたウッドの姿も、祭事を行う司祭の姿もない。
原始人的にはなんだろう?祈祷師かな?
「ウッドチャックはどこでしょうか?」
キリングドールが心配げに質問してくる。
「可能性は二つ。祭事の生け贄としての飾り付け中。
もしくは、ただの食糧として解体直前。」
私の考察にキリングドールが真っ青になる。
「なら、早急に助け出さないと!」
「早急に助け出すのはいいんだが…。どこに拐われたのかだよね…。」
駆け抜けた道には、横道は全くなかった。
ということはこの空間のどこかに居るか、ここから見えないところに横道があってそこに連れていかれたかだ。
「あぁ、そうそう。心配してるみたいだから言っておくが…。
かなり怖い思いはするかもしれないが、死んだら砂浜に復活するから100%無事だよ。」
「それとこれとは別です!不謹慎な!」
怒られてしまった…。
そのような会話をする私達の後ろでは、各パーティーメンバーが固まってヒソヒソ話をしている。
騎龍さんが怖いだとか、人の血が流れてないだとか聞こえてくる。
悪口を言うのはいいが、聞こえないようにしなさい。
一応人の血は流れている。真っ赤な血液のO型だ!
「とりあえず、本気で1回見捨てるのは有りなんだよ?」
そんな私の発言に納得してない表情で、キリングドールが返事をする。
「何でですか?」
「この行動パターンは100%に近いレベルでボス直行なんだよ。
このままだと負ける可能性が100%だ。」
「そこを乗り越えるのがユーザースキルなんじゃないですか?」
結構厳しいこと言うな…。
しかし、不可能を可能とは言えない。
下手な希望を持たせて、落胆させれない。
「まぁ、キリングドールの言い分も正しいよ。
やるだけやってみようか。失敗しても、やり直しは効くんだし。」
「では、どう行動するか考えはありますか?」
「とりあえず、早急にウッドを探しだして助け出すのが最優先。
時点で祭事を行わせないで逃げることだね。
行った時点で誰が死んでもソイツが生け贄にされて、何かの封印が解かれるだろう。」
司祭の命を使って、祭事を全うするのはよくある。
「わかりました、では早急に見つけましょう。」
そう言ったキリングドールの姿が目の前にいるのに、段々と薄くなっていく。
「私が探ってきます。皆さんは見つからないように進んでください。」
そういってる間にも、完全に見えなくなってしまった。
「便利なスキルだな…。」
「色々と制限はありますけどね。これこそ、暗殺者の真骨頂です。
では、行ってきます。」
意図して1歩目だけは足音をたてたのだろう。
ジャリッと砂を蹴る音がした後は完全に無音となった。
「ここで呼び止めたらどうなるんだろう?」
「やめたください、スキルが切れます。」
キリングドールのパーティーメンバーが止めてくる。
残念、面白そうだったのに…。
「さてさて、スニークミッションか。成功するといいけど…。」
どうなることやら。
どっかの怪盗3世のように、最後にはドタバタになるのも面白いな。
それはそれとして、気合いをいれて頑張りましょうかね!
本日も誠にありがとうございます。