絶海の孤島4
バキバキと骨ごと食事をしているTーREXの背後に息を潜めて私達は近づいていく。
暴君の近くには寄りたくないのだろう、他の恐竜達は遠くからかつての仲間を悲しそうな瞳で見つめている。
そんな最強とも言われたこともある暴君の椅子を狙う者達が、今その背に襲いかかった。
「ブレイクダウン!」
別名、剣を思いっきり叩きつけるだけ!
初撃は龍桜。
それに合わせて、ほぼ同時に各員が必殺技を叩き込んでいく。
すいません、私にはそんな格好いいのありません…。
精一杯バッシュを打ち込むだけです。
パチパチと全身の放電やオーラによって、継続ダメージを受けながらも、近接職が耐えながら最大攻撃を叩き込んでいく。
静電気によって、髪が逆立ちそうだ。
「GYAOOOOOOO!」
食事の邪魔をされて、TーREXが怒り狂い吼え猛る。
咆哮によって、朧状態になる人も出てくる。
そんな背後から攻めてきた私達を、ハエのように排除しようと、ブンと振るわれる長い尻尾。
振るわれる攻撃の起点へと私は駆け寄る。
「何度も素直に食らうのは3流の盾だけだ、嘗めんな!!」
横に振るわれる尻尾に対して、下からノックバックで少しだけ跳ね上げる。
それだけで私は吹き飛ばされ、ダメージを食らう。
攻撃力が半端ないし、接近してるだけでダメージとか厳しすぎる…。
「止めるな!打ち続けろ!」
後方から魔法使い達や、HPの低い盗賊達が遠距離攻撃を続ける。
最低ダメージでもいいから、積み重ねるのが大事だ。
そうしてると、TーREXの片足が上がる。
「散開!」
踏みしめた足から、衝撃波と地割れが起こる。初回はこれで壊滅した。
しかし私達は学ぶ生き物である。その間も遠距離攻撃は止めない。
20m位離れてるから、衝撃波が到達する頃には身体が吹っ飛ぶ程度の強風に落ち着いている。そのため、ダメージは無い。
腰を落としていれば、耐えようと思えば耐えれるのだ。
それに耐えるほんの数秒の間に、爆炎を切り裂きTーREXが顔を出して突撃してくる。
地を抉るようにTーREXの顔が近づいてくる。
そこへ私は駆け寄っていく。
「超必殺!万歳アタック!」
これを行うには、凄まじい勇気が必要だ。
私は、戦斧から貰った爆薬に火を付けながら駆けていく。
むしろそのまま、TーREXの口に飛び込んでいく。
「人生最後のデザートを御堪能ください!」
TーREXの喉奥に身体ごと捩じ込んでいく。
瞬間、私の意識は暗転した。
ふと気がつくと、草原の真ん中でソルティが私の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫?討伐終わったよ?」
キョロキョロと周囲を見回す。
おかしいな?今回は復活の選択肢が出なかったな?
まぁ、気絶していて気づかなかっただけかもしれない。
「んで、あの後どうなったの?」
近くには解体されて骨だけとなっているTーREXの残骸。
骨も暫くしたら素材として解体されていくだろう。
「騎龍ちゃんが口に飛び込んで爆発してからだよね?
えっと、TーREXの喉付近で爆発したんじゃないかな?
そこで口から黒煙をあげながらTーREXが気絶したみたいで…。
倒れた相手に、皆で寄って集ってどうにか倒したって感じかな。」
うへぇ、体を張った自爆特攻でも死なないとはすさまじく頑丈だな…。
「そうか、倒せたならいいや…。
えーっと、倒したなら帰還用の魔方陣とかは?」
「問題はそれなんだけど…。
みんなで探してるとこだけど、見つからないみたいなんだよね…。」
「マジかよ…。」
本格的に帰還する手段がわからなくなってしまった…。
どうすんべ…。
「よし、つまり別な手段があるってことだな。」
気落ちしてるのを悟られないように、明るい声を出す。
しかし、嫁にはばれているようだ。
「眉間にシワがよってるよ。」
そんなとこに表情が出ていたのか…。不覚…。
気を取り直してソルティに簡単な方針を伝える。
「島をすべて探索するしかないね。あそこの山の中央とか、一番怪しい。」
そう、これまでの1週間は島の4分の1くらいしか探ってない。
TーREXがボスだと思い込んでいたから、討伐することしか考えてなかった。
不意に嫌な予想が頭を駆け巡る。
「って、ちょっと待て…。TーREXってまさかのモブ扱いかよ…。」
そう言えば、素材だけで宝物とか出てないもんな…。
「えー、またあんなのと戦わないといけないの?」
ソルティが不満を言ってくる。
申し訳ないが、私にはその不満を解消する答えは持ち合わせてない…。
だから、素直に考察を答える。
「あれがモブに思えるほどのボスが居る。
今回の戦闘でそれが判明したよ…。」
この事を報告すると士気ががた落ちになりそうだ…。
ため息しか出てこない…。
キャンプに帰還後、全員で再び相談の時間とする。
「えー、皆も気づいてると思いますが…。TーREXはボスではなかったようです。」
周囲はシンと静まり返っている。
「なんだよ、辛気くさいな。ギルドの町に帰れないってだけで、デスゲームでもログアウトが出来ないわけでもないんだぞ?」
「親父、流石の僕でも心が折れるよ…。」
私自身、心が折れかかっている…。
ここまでハードなのは初めてだ。
いや、最初の絶望に比べたらまだましだな。
そんな絶望を体感してるかしてないか…。
その溝を考えずに口に出した私が一番悪かったと、後々だが後悔する発言をしてしまう。
「なんだ?それでも私の息子か?」
ここで素直に思ったことを口に出したのがいけなかった。
流石に堪忍袋の尾に触れたのか、天音が私の胸ぐらを掴んできた。
「ざけんな!こんな閉ざされた世界で脱出方法もわからねーのに、士気を保てだ!?
親父のように俺は強くねーんだよ!
リアルに普通に帰れるだろうが、関係ねーんだよ!
親父と経験値が違うだ?
えーえー、俺はまだ15のガキンチョだよ!文句あんのか!
半分も生きてないからって偉そうな口ばっか叩きやがって…。
俺はこれでも一生懸命なんだよ!
これで精一杯なんだよ!こんなの耐えれるか!
楽しくゲームする親父の夢に付き合ってるだけなんだよ!」
それに反応して、思わず本音が漏れてしまう。
「あ?誰の胸に手をかけてんだ?殺すぞ?」
思わず本気が出てしまった。
ゲームだからギリギリ許されるが、リアルだと裁判にかけられて実刑直行便だわ…。
そんな私に気後れしたのか、すごすごと無言で天音が下がっていく。
流石にこんな場面で声をあげる者もいない。
しまったなぁ…。選択を誤った…。
恐怖のせいか、チラリとも天音は目を合わせない。
ため息をつきつつ、そんな天音の目の前に私は移動する。
天音は目を合わそうとすらしない。
そんなことは関係なく私は声をかける。
「天音。」
「…。」
「返事は?」
「はい…。」
「思い返せ。私がステータスを間違って、家族に迷惑をかけると言ったあの日の事を。」
「それがなんだってんだよ…。」
「お前は明るい声で一番最初に声をかけてくれたよな?」
「…。」
「そんな優しいお前だ。私の誇りだ。私の意思を継いだ集大成だ。
そんなお前がここで潰れてどうする?
あの時の絶望していた私を救ってくれたのは誰だ?」
「…。」
「自分でもわかってるんだろ?この程度大したこと無いってな。」
「…。」
ふむ、強情だな。
「よし、今思い付いた面白いかもしれないことを話してやろう。」
「…。」
目線は向かないが、耳は聞く気があるのかピクピクと動いている。
「ここは精神と時の部屋だと思え。出る頃には結構強くなれるぞ。
ただし、日数は他の人と同じだけ過ぎるがな!」
「…。バカ親父」
吹き出したいのを我慢してるのか、口の端が歪んでいるぞ。
他の皆もさっきまでのシリアスはなんだったんだ?という顔をしている。
「まぁ、とりあえず小説のようなデスゲームじゃないだけマシだろ。
まだ1週間だし頑張ろうじゃないか。」
「はぁ、わかったよ…。」
さてさて、答えは全く見つからない…。
この島で何があるのかもわからない…。
士気を維持するのも大変だ…。
まぁ、どうにかこうにかやっていくしかないな。
明日も頑張ろう。
本日も誠にありがとうございます。