6話 竜宮寺刹那2
消えゆく炎の中に未だに笑みを浮かべるそれと、その後ろにセプティマ学園の女性用の制服を身にまとった中性的な人影が徐々に姿を現す。
「…迷彩魔法」
自分の姿を地形と混ざり合わせて姿を隠す魔法。
「驚いたぜ、お前が本当の…」
「そうよ」
一拍おいて彼女は口を開く。
「私が竜宮寺刹那、あなたの対戦相手よ」
「かのっちょ」
「ああ」
観客席から有坂と竜宮寺の戦いを見守っていた私と瑞季は、医療科である彼女の魔法に驚いていた。
「一年生で傀儡魔法と迷彩魔法、同時に扱える子がいたなんて」
口で言う分には簡単に聞こえるかもしれないが、迷彩魔法というのは自分の身を隠すためにかなりの集中力が必要になる。加えて人形の動きを操る傀儡魔法。有坂にそれを気付かせないように戦うほどの動きを見せていたのだ。それほどの実力者が訓練科ではなく医療科にいること自体が、今までにない異例だ。
「でもあの魔術障壁は人形に搭載されてるウエポンの一つっぽいな」
「そうだね、簡易的に発動できるように設定されているみたいだけど」
「なんだ、見に来ていたのか」
私たちの話に割り込むかのように、その二人は私と瑞季の隣に座った。訓練科二年、私たちと同じく生徒会のメンバーで会計を担当している二人。
「魔法の質はよさそうやけど、人形の方はしょぼそうやな!」
「その分基礎魔法の能力は高そうだよねー」
ベル・ギョンギョン。銀髪碧眼、中性的顔立ちに短めのショートカット。どう見ても私たちとは別の人種なのに『カンサイベン』と呼ばれる日本の古い言葉を使う変な奴。対して蒼がかった背中にまでかかる黒髪にベルとは比較するのがおこがましいほど豊満な胸の持ち主。武音碧。
「それにしてもあーちん、少し成長した…?」
「…あーちん?」
出た、瑞季の変なニックネーム。瑞季は人に変なニックネームをよくつける。私のこともかのっちょと呼んだり、ベルのことをべるたそと呼んだり。今回は恐らく有坂のことだろう。
「確かにあの時の神話魔術をすぐに使うのかと思っていたら、結局使わなかったからな」
神話魔術。聖字を持つ者にのみ許される全魔法の中でも最強クラスに部類される魔法の一つだ。その魔法の構築は通常の魔法と明らかに違うため、聖字を持つものしか使うことが出来ないのだ。
「でもまだまだ未熟だな」
「この大会でかずっちょの出番は多分ないよ」
「そうだな…」
「降参するわ」
「は?」
竜宮寺の言葉に会場全体がざわつく。
「正体がばれた以上、あとはあなたの大技を喰らえば負けは確定している。これ以上は無意味だわ」
「…」
確かに。俺が何も考えずに人形の方に聖剣ならざぬ焔の翼を放っていたら、竜宮寺事態にダメージはなくそのまま俺にとどめを刺せただろう。だが正体がばれた以上、もうあとは竜宮寺本人に攻撃を仕掛けるだけ。そしておそらくあいつは俺の攻撃を受け切る自信がない。判断としては間違ってはいない。
「それではこの試合、勝者訓練科一年!」
審判を務めていた教師の言葉と共に竜宮寺は控室に向かって歩き出す。
「お、おい待てよ!」
「…何よ?」
竜宮寺は俺の言葉に振り替えれば鋭い目付きでこちらの方を睨みつけてくる。その冷たい表情は、俺でも引き下がってしまうような表情だった。
「…あんた、まだ何か隠していたんじゃないのか?」
「…」
竜宮寺は表情を変えずに小さく口を開く。
「さて、どうでしょうね」
そう言い残して竜宮寺は控室へと足を運んだ。