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魔法と神とそれから人  作者: 穏乃
校内戦編
5/33

5話 竜宮寺刹那

「燃えろ…」

 校内戦第一回戦第一クオーター、俺と同じ一年の医療科二組竜宮寺(りゅうぐうじ)刹那(せつな)が対戦相手。俺は竜宮寺にめがけて聖字(ルーン)に込められて灼熱(ザ・フレイム)の魔力を投げつけた。大きな音とともに視界は黒い煙によって遮られ、一瞬にして竜宮寺の姿は見えなくなってしまった。だが今の一撃は間違いなく竜宮寺をとらえた。手ごたえもあった。普通に焔をぶつけただけだったが、それでも直撃すれば身動き取れなくなるくらいにはなるだろう。

「一回戦で俺にあたったのが不幸だったな」

 確実に仕留めたと思い俺は竜宮寺に背を向け、控室の方へと足を踏み出した。

「あはは」

「っ!?」

 聞くだけで頭にくるような笑い声が俺の放った黒い炎の中からこだました。ただの炎をぶつけただけだったが、それだとしても竜宮寺の様子は明らかにおかしい。俺の攻撃を喰らって、直撃したにもかかわらず竜宮寺には一切の外傷が見当たらなかった。まさに、無傷だった。

「なんで…確かに直撃したのに…」

「あはは!」

 竜宮寺は笑いながらだぼだぼの制服の袖口の中から数本の弾頭のようなものを撃ってくる。魔力弾頭、魔力を込めて作られた対ユグドラシル兵器の一つだ。その威力はユグドラシルをひるませるほどの威力と聞く。実際に俺はユグドラシルというものがどういうものなのかは知らないが、普通の魔法が効かない相手をひるませるのだ。それなりの威力がある。直撃すればそれこそ俺の方が動けなくなってしまう。

「くそっ」

 俺は手を竜宮寺に向け、魔力を集中させる。聖剣ならざぬ焔の翼フォーヴズ・ウルドガング、を放つために。俺の中でこの技が一番強力な技だ、だがその代わりにデメリットがあり、聖剣ならざぬ焔の翼フォーヴズ・ウルドガングを放った直後はその反動で極端に扱う魔力の量が減る。だがその分威力があり、今までこの魔法を防がれたことも相殺されたことも一度もなかった。そう、あの日まで。デメリットを気にせずこの一撃で終わらせる。それだけの威力を持っているのだ、例えさっきの炎を竜宮寺が防いだのだとしても、この一撃を防がれることは絶対にない。

「終わりだ―――」

「梓っ!」

 観客席の方から、俺にめがけて大きな声が飛んでくる。その声に反応して俺は声のした方向に向く。声の主は俺の真後ろの観客席で俺を見ていた澪田の声だった。

「…澪田」

 俺の魔力で会場全体が熱を帯びる中、澪田は俺に目で訴えてくる。澪田が何を訴えているのか、想像がつく。この技を使うなと言いたいのだろ。

校内戦が始まる前に澪田と凪木と作戦会議をした。短期間だがお互いがお互いの弱点や克服するべき点を報告し合う場として。俺の克服すべき点。自分の攻撃を防がれるとすぐに熱くなって考えもなしに大技を撃ってしまう癖。

「…様子を見ろってことか」

 俺は集中して手に溜めていた魔力を一度解放させれば、両手に小さな炎を宿す。そのままその炎を二度、三度と俺の攻撃を待ち構えているかのように立ち尽くす竜宮寺めがけて放つ。唸るように炎は竜宮寺に真っ直ぐと向かう。だがその炎は竜宮寺にあたることなく途中で消滅する。

「…魔術障壁か」

 魔術障壁、基礎魔術の一つで魔法を防ぐバリヤーのようなものだ。おそらく竜宮寺の前方を中心に展開しているのだろう。最初の攻撃で手ごたえがあったのに竜宮寺が無傷だったのもそれが理由だろう。俺の攻撃を何度か防いでおきながら顔色も変えずにいる以上俺の攻撃で魔術障壁に傷が入ったわけでもなさそうだ。

「ならっ―――」

 一気に接近し、俺は竜宮寺の腕にめがけて蹴りを入れる。魔法を使わない普通の蹴りを。魔術障壁というのはあくまで魔法を防ぐものであって、魔法が全く絡まない関係のものは防ぐことができない(物理攻撃を防ぐ魔法もあることはあるが)。なので魔術障壁を張られたらこうやって物理攻撃を入れて魔術障壁を破ってから魔法で攻撃するパターンが多い。

「ったく、俺らしくねぇ…」

 狙い通り竜宮寺は魔力障壁を張る集中力が途切れたのか、壁が消え去る。それを確認した俺は炎をまとった足で竜宮寺の腹に思いっきり蹴りを喰らわせる。

「ぬがっ―――」

 俺の蹴りを喰らい鈍い声を上げる。

「―――っ!?」

 俺は確かに竜宮寺の腹に蹴りを喰らわせた。なのになんでこんなにも人形みたいに軽いものを蹴ったような感覚なんだ。

「…」

 確かめる必要がある。

「湧き上がりしは大地が伏せし烈火」

 俺の詠唱に合わせて黒い炎が俺の右腕の周りを渦巻き、そして渦巻いた炎が掌に集まっていく。

「戒めを縛り付ける煉獄の炎」

「あれは二重詠唱っ!?」

 どこからか、あの生徒会の会長の声が聞こえた。二重詠唱、詠唱魔法というのは基本的に通常の魔法に比べて集中力を使う。そして二重詠唱というのはその詠唱魔法を二回連続で発動することだ。ただでさえ宮中力のいる詠唱魔法を重ねて使うのだ、かなりの集中力と魔力を使う。実際二重詠唱を使える人間は限られている。

「いくぞ、竜宮寺」

 俺は地面を蹴り、右手に集まった炎を竜宮寺の足元向けて放つ。さすがに竜宮寺も地面にまでは魔術障壁を張っていなかったらしく、消えることなく地面に直撃する。

「その炎はそういう魔法じゃないんだよ」

 ―――バーンスプレッド、地面にあたった炎が湖のように広がり噴火するように炸裂する魔法。

炎鎖縛交(えんさばっこう)っ!」

 地面の炎が炸裂するのとほぼ同時に地面から炎で出来た鎖が竜宮寺を捉え、動きを封じる。そして竜宮寺はそのまま炎に飲まれていく。

「ったく、竜宮寺刹那…ね」

 対戦前に読んだ竜宮寺の資料のことを、竜宮寺に蹴りを入れて初めて思い出した。こいつは資料には、女と記されていたのを。

「さっさと姿を現せよ、竜宮寺」

 炎が徐々に消えていき、再び竜宮寺の姿があらわになる。だがそれと同時にぷちん、という音がなる。まるで糸が切れたような音だ。

「こんなに早くばれるのは、予想外だったわ」

 竜宮寺のさらに後ろの方に、女性のかげが突如現れた。



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