3話 生徒会
「まさか、同じ学年に聖字持ちがいたなんてね」
凪木はめんどくさそうに頭を掻けば左手から小さな稲妻をバチバチっと音を鳴らせた。凪木の着けているバングル型の魔導器が凪木の魔力に反応して青く小さく光る。
「でもそれとこれとは別だぜ」
有坂の右手から生み出された黒い炎、灼熱による一撃はまっすぐ凪木の方へ向かう。それに対して凪木は自分の正面に網上の青い電気のようなものを張り巡らせる。有坂の黒い炎は網上の電気に触れるとそのまま凪木にあたるのではなく凪木の周りに誘導されるように散っていった。
「マグネットフィールド…」
マグネットフィールド、電気系統の上位魔法に位置する技。魔法というのにはそれぞれの属性によって特性が存在し、電気は魔力力場の操作を可能とする特性を持つ。魔力力場というのはこの世界における魔力の流れの決まり。魔力はより強い魔力に支配され、それに従うようにできている。そしてマグネットフィールドというのは魔力力場を操り相手の魔法を全く別の方向へそらすという技である。だが魔力は強い魔力に依存する。つまり相手の魔力をそらすほどの強い魔力力場を作れなければこの技は使えない。なので並み程度の魔導士ではマグネットフィールドは張れないのだ。それは凪木が並の魔導士ではないことを一瞬で悟らせるには十分な行動だった。
「くそっ」
有坂は炎の攻撃をいったん止めれば二歩ほど下がり距離をとる。そして魔法を使用するかのように左手で右手首を握りしめ、ぶつぶつとつぶやき始めた。
「我従えるは元素の一、大蛇と戒めれられしその因果を解き放て」
詠唱魔法。通常の魔法は体内の魔力を魔導器で魔法に変換するだけなのだが、そこに詠唱を加えることで魔法に更なる意味を持たせて魔法自体を強化することができる。有坂は魔導器を持っていないが、聖字が魔導器の代わりとなっている。
「業火よ爆ぜろ」
有坂の手の平に大量の黒い炎が収束していく。
「聖剣ならざぬ焔の翼!
有坂の手の中に収束された炎はまるでレーザーのように真っ直ぐ凪木に向かって放たれる。その魔法が他の魔法とは明らかに違うのは一目見てわかった。あんなもの直撃すれば、間違いなく死ぬ。そしてそれほどの魔力がこもってる以上凪木のマグネットフィールドくらいでは防ぎきれない。
「有坂っ―――」
その刹那、屋上全体が冷気に覆われた。比喩とかそんなのではなく、物理的に。
「おい、餓鬼ども…」
「なっ!?」
有坂の放ったレーザーのような炎は突如凪木の前に現れた氷のような壁によって防がれてしまう。そしてワンテンポ遅れてから私はその氷が全く別の誰かのものによるものだということに気付く。
「お前らバカか、学校をぶっ壊す気か」
金髪、赤とオレンジのオッドアイ。首筋に見えた『I』と刻まれた聖字。間違いない、入学式の時に見たことがあるあの人だ。神木和音、生徒会副会長にして校内ナンバー2という高位実力者。セプティマ学園に通う生徒なら誰でも知っている人だ。そしてその隣にいる茶髪の彼女、あの人も入学式で見た。石川瑞季。生徒会の会長。彼女も魔導器を梨に魔法を行使する聖字持ちで『R』を持つと噂されている。
「まぁまぁかのんたん、許してあげなよ」
生徒会長は微笑みながら副会長の肩をポンポンと叩く。私はもちろん有坂も凪木も一言も口を開くことはなかった。当然だ、相手は有坂のあれ穂の魔法をいともたやすく止めるほどの実力者で、三年生の先輩だ。
「キミ、澪田さんだよね?」
「えっ!?」
驚いた。当然だ。三年生が入学したばかりの私の名前を憶えているのだから。私の名前なんて入学式の時に点呼で一度呼ばれただけなのに。
「生徒会長なんだから、生徒の名前全員覚えてて当然だよ?」
「っ!?」
「あはは!まるで心を読まれたような顔してるね…?」
その通りだ。わたしはなにも喋っていないのに、まるで心を透かされているみたいに。
「瑞季」
「そうだった…」
副会長に言われて思い出したかのように生徒会長はポケットから紙を一枚取り出せば私に差し出す。それは校内戦参加の表明用提出用紙だった。生徒会長は魔力でもこもったような笑みを浮かべながらこうつぶやいた。
「待ってるよ、校内戦で」