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魔法と神とそれから人  作者: 穏乃
校内戦編
26/33

26話 九鬼門

騎士(ザ・ナイト)…だと。お前の魔法は氷結(ジ・アイス)って聞いてたんだけどなぁ…」

 爆発で起きた黒い煙に向井は少し大きめの剣の肩に乗せながら佇む。リッターはそんな向井を睨みつけながら少しずつ動き距離を詰めていく。

「でもまぁどうだっていい、俺には勝てないんだからなぁ!」

 リッターが両手を点に掲げる。

「始まりたる五大元素の炎よ、その穏やかたる軌跡、信念は剣、剣は破壊、顕現せよ…!」

 リッターの唱える詠唱とともに手のひらに先ほどとは比べ物にならない巨大な魔力の塊が集束されていく。

「エンドレスバーン、お前の命を焼き切る俺の最強の神話魔術さ…」

「…再強か、聞き慣れた言葉だ」

 向井は方に乗せていた剣を地面に突き刺す。

聖字(ルーン)を使いこなせていない奴が最強といったところで戯言にしか聞こえない」

 人形殺し(リーゼロッテ)、小さくそう呟いた向井はそのまま振り下ろされた巨大な魔力に飲み込まれていく。魔力は向井を飲み込んだまま地面で耳が痛くなるくらい大きな爆発音を鳴らしながら会場を火の海へと変えていく。

「は、はははは。ざまぁみろってんだ雑魚が!」

「俺が言いたいのはこれだけだ」

「なっ」

 火の海は魔力に飲まれたはずの向井の魔力の衝撃波によって振り払われ、無傷の向井が現れる。無傷、というべきなのだろうか。そこにあったのは先程までの神木の姿をした向井ではなかった。完全に黒く染まった髪、それまで着ていた制服を全く感じさせないスーツ姿、眼鏡までかけておりその姿は完全に先ほどとは別人のようだった。

「死ね」

 殺意の混ざった視線にリッターは一歩、二歩と後ずさっていく。

「なんだ、なんなんだそれは…」

神衣(かむい)聖字(ルーン)に刻まれた魔法を使うのではなく纏う、聖字(ルーン)の終着点」

 向井は地面に突き刺した剣を抜けば再びその剣を自らの肩に乗せる。

「そしてこれが俺の神衣、人形殺し(リーゼロッテ)

 会場全体の空気が完全に掌握されたかのように向井が一歩足を運ぶたびに空気が震えていく。

「5分って宣言したからな、そろそろ終わりにする」

「…なんだよ、こいつは!?」

 突然会場に残っていた炎がリッターを囲うように集まっていく。それに続くように向井は剣を左手に持ち替え、右手に小さな魔力の塊を生み出す。

「とくと味わえ、俺の神話魔術」

 徐々にその小さな魔力は炎のように大きく燃え上がっていく向井すら燃える勢いで膨れ上がっていく。

「闇に、轟け」

 向かいは右手を大きく振るう。

「キッシング・ザ・スカーレットォ!」

 向井の右手の魔力はそのまま真っすぐリッターへと向かい、その周辺を劫火で飲み込んでいく。

「幻想の蒼空(そら)は、紅く染まる」

 リッターを飲み込んだ炎はそのまま徐々に消えていく。そこにはボロボロになって気絶をしたリッターの姿があった。




 後夜祭、対校戦を終えた生徒たちをねぎらう形で無償で学園側が開くお祭りである。対抗戦に参加した生徒ならばこのお祭りの屋台のものは全て無料になっている。澪田、有坂、竜宮寺、神木、ベル、武音、渡辺の七人はある程度の屋台を周り終えたのか街の外れでそれぞれ壁に背中を預けたり床にしゃがみ込み体を休めていた。

「にしても神木先輩、あの神衣ってなんだよ?!」

「…私が使ったわけじゃない。あれはいうなら聖字(ルーン)の本来の使い方というか…」

「はーい、あーちんもかのっちょもそういう話やめやめ~」

 二人の話を遮るように石川が横槍を入れる。

「ところでなっきーは?姿が見えないけど」

「凪木くんやったらさっき疲れたから先に帰るって言って宿舎に帰ってったで」

「そりゃ慣れないところに来たんだもの、疲れるわよ」

 頭に包帯を巻いた武音はベルの肩に寄りかかる。

「あの、凪木一人じゃ心配だろうから私も宿舎に戻りますね」

 澪田はペコリと頭を下げればその場を抜けていく。

「でもこれだけ人いるのに宿舎まで戻れるかな」

 そう小さくつぶやきながら澪田は人混みの中を駆け抜けていく。ところどころ対校戦で見かけた顔をちらりと横目で見ながら。するとよそ見をしていたからか、一人の女性とぶつかり尻餅をつく。

「あの、すいません」

「ああ、大丈夫か?」

 金髪のボブヘアー、黒いこの場に似つかわないドレス。差し伸べられる手。澪田は激しいデジャブを感じた。

「貴女は…」

「あ、会場で会った」

 差し伸べられた手を握りしめ、澪田は立ち上がる。

「試合見てたわ、すごかったわね」

「あ、ありがとうございます」

 澪田は顔を赤らめつつも小さく頭を下げる。

「澪田…深雪さんね」

「あ、はい」

「…私はウルド」

 ウルドと名乗った女性は右手で左腕を握りしめる。

「…時間だな」

「えっ?」




「…」

「あ、いたいた」

「会長…」

 宿舎の屋上で一人、街の景色を眺めていた凪木の横に現れたのはセプティマ学園の生徒会長、石川瑞季だった。

「お疲れ様」

「みんなは?」

「まだ街にいるよ」

「そう…ですか」

 凪木は少し暗い表情を見せる。

「あのね、私の魔法独心術(ジ・リードリーダー)はね。ただ心を読む魔法じゃないんだ」

「…」

 凪木は何も答えない。

独心術(ジ・リードリーダー)はね、無差別に人の心を読んじゃう魔法なんだ」

「何が言いたいんですか、会長?」

「貴方は何者なの?」

 静まり返った宿舎の屋上に石川の声が響く。

「…何者とは」

「とぼけないで、九鬼門って何?トールってのは貴方の名前?ウルドって女とやろうとしてることって…」

「全く、貴女はやっぱり危険な存在だよ」

 刹那、賑わっていた街がまるで暴動が起きたかのように爆発音が鳴り響く。屋台は紅蓮に染まり、その場で大量の姫が鳴り響く。

「…嘘だよね、なっきー?」

 凪木はなにも告げずに惨状となった街の方を眺める。

「ねぇ、なっきー!」

「俺の名はトール」

 ようやく凪木は口を開く。

「ユグドラシル九鬼門の一人、トールだ」


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