24話 激突
「…深雪」
砂の舞う会場に刀を持ち、シズ・ランバートはその場に立ち尽くす。
「…お姉ちゃん」
その傍らにはボロボロになった梓が倒れていた。頭の風船も割れており、意識はあるようでがルール上動けないのだろう。
「わりぃ、やられた」
「ううん、仇はとるよ」
深雪は真っ直ぐシズの睨みつける。
「…いい目になったな」
「うん」
深雪は素直に頷く。
「だから、本気で行くよ…!」
詠唱銃からの銃撃、だがそれはシズを貫くどころか何かに触れること無くその場にとどまる。まるで銃口から光の刃が出てるかのように。
「詠唱銃剣、加速で撃ち出した弾丸を最大まで加速、そして固定化させることで銃撃の剣を生む私の奥の手…!」
リィン、と空気が震えるような音を鳴らし深雪はその剣を軽く振るう。
やっとーーーのお前とーーー。
「…?」
シズが何かを呟いたように見えたがその言葉が深雪に届くことはなかった。
「いくぞ!」
シズは刀を片手に大きく踏み込みその剣を振るう。対して深雪も右手に持つ銃であった剣で迎え撃つ。ガキン、という金属音に続いて何かが地面に刺さるような音が聞こえた。
「…その魔法」
シズの持っていた刀の刀身が折れ、そのまま宙を舞い地面に突き刺さったのだ。シズはその状況を理解すればすぐさま深雪との距離を取る。
「中で魔力が高速回転して、チェーンソー状になっているのか…」
シズが金色の髪を揺らす。
「今のでこれの仕組みがバレちゃうなんて、さすがはお姉ちゃんだね」
「そうか、なら仕方ない」
シズは折れた刀の柄を投げ捨てればポケットから石のようなものを取り出す。
「マジカニウム合金。鉱石のことは僕も詳しくはないのだけど、簡単に言えば魔力の宿った硬い金属らしい」
その言葉を告げた瞬間砂が爆風のように大きく舞う。少ししてから舞った砂が落ち着けばシズの姿が顕になった。先ほどとは比べ物にならない大きな刀を持ったシズの姿が。
「それ…は」
「錐朱雀、これが私の真打ちだ」
深雪とシズはお互い身構えた後に再び刃を交える。だが先程とは違いシズの刀は折れること無く何度も深雪の詠唱銃剣とぶつかり合う。
「その刀も魔力を…」
「それだけじゃない。さっきと違って刀そのものに魔力が宿ってる、風船に触れるだけで終わりだ…!」
大きく振るわれたシズの一撃に深雪は耐えきることができず、砂を足をつけながらも大きく吹き飛ぶように距離が開く。
「まだだ」
この会場は現在砂の舞うフィールドだ。なのに深雪は冷気と悪寒を感じ取った。
「雪月花第一章」
それは空気上の水分が何かに入れ替えられているということが頭の中によぎる。
「雪染めの舞!」
「くっ!」
急に目の前に現れた氷の刃を深雪は間一髪で避けきる。だがそれは一撃では済まなかった。二撃、三撃と氷の刃は深雪に向かって降り注ぐ。
「…加速!」
深雪は通常の倍の速度で動きながら氷の刃を避けきり、シズに向かって右手に持つ剣を振りかぶる。
「その程度…!」
「なっ!?」
倍速とは言え、不意をついた攻撃をしたつもりの深雪はその攻撃をシズに刀で防がれてしまったことに驚きを隠せず、一旦距離を置くために大きく飛ぶ。
「なんで加速に追いついて…」
「さてね」
試してみないとわかんない、深雪は先程よりも速い速度で動き回りながらシズに近づいていく。
これだけ動き回ればいつ攻撃されるかわからない。そう思って再び風船めがけて剣を振るうが、それすらもシズによって防がれてしまう。
「はぁ、はぁ…そっか。体感速度」
息を荒げながらも深雪の言葉にシズは体をピクリと動かす。
「自分の体感速度を私のものに入れ替えたのね」
「…そう、姉妹だからできることよ。私に貴女の魔法は効かないわ」
「そっか…」
そう告げられた深雪の顔は、笑っていた。
「だったら剣の実力でお姉ちゃんを上回れば、私の勝ちだね」
刹那、深雪は常人の目では追えない速度でシズに斬りかかる。だがそれをシズは何度も何度も受け止めていく。深雪の詠唱銃剣も刃自体は魔力でできている。これが風船に触れればそれで試合終了。条件はほぼ同じなのだ。
「…ふっ」
緊迫感が増す中、それでも深雪とシズは笑っていた。お互い体力が徐々に削れ、追い詰め追い詰める状況に息を呑みながらそれでも手を休めること無く攻撃が止むことはなかった。
「でも」
ガキン、と深雪の剣が弾かれる。深雪の一撃をカウンターのようにシズが弾き飛ばしたのだ。深雪の体は勢い余って空を舞い、大きなスキが生まれた。
「雪月花第二章、月光烏の舞…!」
突き出されるシズの刀には大きな魔力が宿っているのが一瞬で理解できた。これを喰らえば負ける。そんなわかりきったことが深雪の頭の中でぐるぐると回り続ける。詠唱銃剣で弾こうにももう魔法を使っても間に合わない。どれだけ加速で体感時間を伸ばしても打開策は見つからなかった。
「この距離なら、弾けまい」
シズがそう言ってるように聞こえた。そうだ、もう弾くには間に合わない。だが弾かないことには。弾かない。その言葉が深雪の頭の中で引っかかった。シズの刀を弾くこと無くこの場を凌ぐ唯一の方法。そんな方法が一つだけ、存在した。
「勝てばいいんだ…!」
「えっ?」
一瞬の出来事だった。深雪の持つ詠唱銃は剣の刃の形を失い、シズの刃が深雪の頭についた風船を貫くよりも早く、シズの風船を撃ち抜いたのだ。
「…」
「…」
シズの刃は深雪の風船に触れる寸前のところで止まり、同時に試合終了のゴングが会場に響き渡った。




