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魔法と神とそれから人  作者: 穏乃
校内戦編
23/33

23話 想い

「いくぞ」

「っ!?」

 右に、左に。シズの剣閃が深雪の詠唱銃(スペルガン)と交差する。何度も何度も交わる刀と銃。

「守ってるだけでは勝てないぞ」

「…くっ」

「…」

 シズの攻撃を受けているだけの深雪の呆れたのか、シズは刀を大きく振るう。その一撃を深雪は左手に持っていた銃で受け止めるもその一撃が重すぎたのか、深雪の持っていた詠唱銃(スペルガン)は砕け散る。

「なっ…」

「どけろ深雪…!」

 その間を梓が割り込むように踏み込む。

「喰らえ、ペネトレイト…」

「私はお前の魔法に、恐怖など抱かんぞ」

 その瞬間、梓は、いや梓だけでなく深雪の体も一振りの剣圧で吹き飛ばされてしまう。大きく吹き飛ばされた梓と深雪の体を刹那は残っていた一体の傀儡で二人の体を受け止める。受け止める、と言っても傀儡一体では二人の体を完璧に受け止めることができず傀儡自体も変な音を鳴らしながら倒れ落ちる。

「ちっ」

 今ので中の回路がイカれたかも、そんなことを考えながら刹那は倒れる二人の元へ駆け寄る。

「二人とも大丈夫…?」

「くっそ、俺は大丈夫だけど深雪が…」

 深雪の両手にあったはずの詠唱銃(スペルガン)のうちの片方の銃口が砕け散り、魔力を放てるような状態ではなかった。それだけでなく剣圧に魔力がこもっていたのか、深雪の頭についていた風船が割れてしまっていた。

「これじゃ深雪が…」

「…深雪、どうしたの?」

「あ、え?」

 聞いてなかった、という様子だ。

「さっきから少し様子変だよ、守ってばっかりなんて貴女らしくない」

 刹那自体は手合わせしたことはないが、校内線で瑞季と戦っているところを見ている。瑞季と戦ったときは確かに守りよりも攻撃に転じていた。

「いや、その…」

「…」

 その様子を見て刹那は何かを感じ取ったのか、右手の魔力糸(ブルーストリンガー)を小さく動かす。だが先程梓と深雪を受け止めた衝撃のせいか傀儡が動く気配はなかった。

「…はぁ」

 大きくため息を付けば刹那は深雪を抱え、立ち上がる。

「ちょ、刹那!?」

「梓、私は深雪の目を覚まさせてから風船を譲渡する。それまでの時間稼ぎお願い」

「…あいよ」

 梓も何かを察したのか、右目を黒く染めながらシズに向かって拳を構える。

「ちょ、ちょっと待って…」

「暴れないで、私体力ないんだから」

 梓が地面に向かって魔力を放ち砂埃を立てたのと同時に、刹那は深雪を抱えてその場に背を向けて走り出した。




「さて、話してもらいましょうか」

 梓とシズの戦う戦場から少し離れたところで深雪は降ろされる。ルール上風船を持たない深雪が身動きを取ってはいけないが、運ばれたなら別だ。

「貴女がなぜシズ・ランバートに向かって本気を出せないのか」

「…」

 深雪は口をふさいだまま、そのまま言葉を紡ぐことはなかった。

「はぁ…お兄さんなの?」

「…そうだけど、そうじゃない」

「どういうこと?」

 ようやく言葉を漏らした深雪に対して刹那はすかさず問いかけを投げつける。

彼女(、、)旧名は澪田(みおだ)穏乃(しずの)、私の実のお姉ちゃんだよ」

「っ!?シズ・ランバートは女…?」

 その言葉に目を見開く刹那に対し、深雪は黙って頷き続ける。

「でもランバート家の養子になるときに、名前と性別を偽ったっんだよ」

「なんでそんなことを…」

「私がAの聖字(ルーン)を奪っちゃったから」

「奪った…?」

「…」

 3年前の話になる。澪田家は代々Aの聖字(ルーン)を受け継いできた家系でもありその後継者が代々聖字(ルーン)を受け継ぐしきたりになっていた。3年前、澪田家長女である澪田穏乃は聖字(ルーン)継承の儀式を受けるはずだった。そのために育てられ幾つもの魔法の訓練を受けさせられ、辛い修行を乗り越えてきたのだ。だが次女である深雪には親から一切の関心を受けること無く、いつもそれを眺めているだけどだった。

「私が聖字(ルーン)を受け継いだらお母さん達、私のこと見てくれるかな」

 そんな軽い気持ちで当時13歳だった深雪は穏乃に成り代わり、継承の儀式を受けた。その瞬間から世界は変わってしまった。今まで穏乃に向けられていたものが全て深雪に変わり、聖字(ルーン)を継承できなかったという理由だけで穏乃は誰にも見向きすらしてもらえなくなったのだ。穏乃は15歳になる春にCの聖字(ルーン)を継承するランバート家の養子になると出ていった。ランバート家は代々男の魔道士を育てていく家系でもあり、その頂点に聖字(ルーン)が与えられる家でもあった。たとえそれが養子であっても。穏乃は自らの性別を偽り、名前を捨て、澪田家を去っていった。




「私が勝手なことをしたから、あの人を不幸にしてしまったの」

「それが本気を出せなかった理由…?」

 深雪は刹那の問に頷くことはなかった。

「迷ってるの、ここで勝ってしまったらまたあの人から何かを奪ってしまうんじゃないかって。だからーーー」

「ふざけないでっ!!」

 刹那は普段じゃありえないくらい大きな声を張り上げながら深雪の襟元を掴む。

「お姉さんに申し訳ないから本気で戦ってもいいか迷ってます?そんな私情を今この場に持ち込まないでよ!」

「―――っ」

「貴女なんにために戦ってるの?家のため?お姉さんのため?」

「わ、私は…」

 口籠る深雪を刹那は砂まみれの地面に向けて投げ飛ばす。

「今ここで戦ってるのは私や梓、貴女だけじゃないのよ…?」

 刹那は今にも深雪を殴り飛ばしそうな勢いで、でもそれを抑えつけるように歯を食いしばる。

「この戦いには本来琉依先輩が参加する予定だった、それに私達が勝つことを信じて和音先輩がタスキを待ってる!」

「それなのに貴女はそんなくだらない理由で戦わないの…?」

「くだらなくは…」

「くだらないわよ!」

「っ!?」

 刹那の罵声にビクッと体を震わせるも、当の刹那は息を荒げ涙を浮かべていた。

「私の魔法はシズ・ランバート相手に相性が悪い。だから貴女に風船を譲渡するわ」

 刹那は呼吸を整えつつ頭の風船を外しゆっくりと深雪に歩み寄れば深雪の割れた風船のヘルメットと入れ替える。

「勝てるとか勝てないじゃない、私達はみんなの想いを背負って戦ってるの。だから貴女の全力をぶつけてきて?」

「あっ…」

 そう言って刹那は深雪の体を強く抱きしめる。体の震えは徐々に止まっていき自然と深雪の目元にも涙が浮かんでいた。

「私間違ってた」

 深雪はゆっくりとつばを飲む。

「ありがとう、刹那。私、行くよ」

 立ち上がった深雪は残っていた方の詠唱銃(スペルガン)を握りしめる。

「お姉ちゃんに謝るのはあと、今は全力をぶつけるんだ…!」

 深雪のその目はもう迷いという文字が似つかわしくないほど、まっすぐな瞳をしていた。


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