2話 澪田深雪-2
「校内戦に出るなら、あと一人いるな」
有坂梓はキメ顔でそういった。そんなことは置いといて、彼の言う通り校内戦とは三人一組で校内対抗戦を行う。なので最低限出場するには一チーム三人のメンバーをそろえなくてはいけない。校内戦のルール自体は三人が順番に戦い、二勝した方が勝ち。最後まで勝ち抜いたチームがこのガービアの外を出て、別のガービアへ行き他のユグドラシル学園との対抗戦に出場する権利を得ることができる。そして対抗戦に出場する選手を決めることができるのだ。訓練科を希望する生徒はこの対抗戦と校内戦で実戦を詰む機会を持つことができるので、参加する生徒が多い。だがまだ入学したばかりの生徒は魔法を持っていないことの方が多いので参加することは基本ない。私や有坂みたいに入学する前から魔法を持って居る新入生はかなり少ない。なので正直望み薄ではある。
「魔法持ってる人なんて私たち以外にいるのかな…」
「凪木って奴が、怪しい」
「凪木さん…?」
なんでこの人はさっきから腕を組みながらキメ顔なんだろうってずっと思ってる。じゃなくて、聞いたことのない名前だ。当然のことではあるが、自己紹介の時きちんと話を聞いていなかったからかもしれない。有坂の自己紹介がインパクトがありすぎて、覚えていない。
「…あいつの自己紹介の時、一瞬だが強い魔力を感じた」
「…」
魔力。魔導器を介して魔法を発動させるのに必要なもの。それが人のどこにあるのか、どう生み出されているのかまでは解明されていないが、魔力を感知しやすい人ならば強い魔力が近くにあれば感じるものらしい。
「魔力を感じるような奴ってのはだいたい魔法が使えるはずだろ」
そう、魔法を一度も使ったことのない人からは魔力は感じることができないと聞く。それは魔力に蓋がされていて、一度でも使わないと感じ取ることすらできないのだ。そしてこの学校に入学するまで魔法を使うことのできる人というのは限られている。つまり魔力を感じることができたということは凪木さんも魔法使いだということなのだ。
「早速スカウトに行かないとな」
「あんたが凪木かい?」
「…お前は確か」
有坂、と続けて凪木と呼ばれた彼は有坂を睨みつけた。
「俺がお前に声をかけるってことは、どういうことはなんとなく察しがついてるんじゃないのか?」
「…かなり小さめに抑えたつもりだけど、まさかあれを拾われるなんてな」
かなり小さめ、そう。有坂は感じ取ることができたのに私には感じることができなかった。私自身も魔力の探知能力自体そこまで高くないとはいえ感じ取ることすらできないほど微弱な魔力をしかも一瞬しか感じ取ることのできなかった魔力を感じ取ったのだ。有坂の魔力探知能力はかなり高い方なのだろう。
「ただし有坂、少し力を見せてもらう」
凪木さんは羽織っていたブレザーを脱ぎ捨てればその右腕についていたバングル型の魔導鬼があらわになる。
「校内戦、やるからには半端は嫌なんでね」
「は、上等だこら」
そう言い捨てれば有坂もブレザーを脱ぎ私に投げ渡す。
「いいか凪木、先に一撃決めた方が勝ちだ」
「…」
承諾の意味を込めて、凪木は小さく頷く。その瞬間、視界が黒色に染まった。いや、それ以上に驚くことがあった。魔法というのは魔導器あってのものだ。魔導器がなければ魔法を使うことはできない。それが常識だ。だが有坂はその常識を覆していた。魔導器を身に着けていない。武装型の魔導器を使っているわけでもなく、黒い炎を生み出す魔法を有坂は使っている。つまり魔導器の使用は必須というわけだ。なくてはならないのだ。なのに有坂は魔導器なしで魔法を行使しているのだ。
「理解したか、凪木」
「…成る程ね」
魔導器なしで魔法を行使するものは確かに存在する。それはユグドラシルから与えられた26の力の一つ。
「これが俺のFの聖字、灼熱だ!」