19話 椎名珠
「各選手の皆さん、これを付けてください」
そういって渡されたのは風船の付いたヘルメットだった。
「その風船は特殊加工されており、一定数の魔力を与えると破裂する仕組みになっています」
「魔法じゃないと割れない風船ってわけか」
「はい」
控え室でスタッフの青年が頷く。
「この風船が三つとも割れた時点で負けとなり、風船が割れた選手はそこから動くことも戦闘することも禁じられます」
「もし破ったら?」
退屈そうに聞いていた刹那がヘルメットをかぶりながら返す。
「風船の中には特殊な粉が入っており、動けなくなります。ただし別のヘルメットをかぶるとその粉の効果は消えます」
「というと?」
「1チームに一度だけ風船の譲渡が認められています。ただしヘルメットを譲渡した側は動けなくなるので注意してください」
「なーるほど」
説明を聞き終え、梓たちは会場へと向かう。三つめの種目、トリプル風船バトルは今までの会場とは少し違い大きめの会場になっている。そこで六人の選手が風船を割り合うという種目になる。スタート地点はそれぞれバラバラで、砂で覆われた砂漠のような地形となっており誰がどこにいるのかはわからない。
「選手交代のお知らせです、神木和音選手と渡辺琉依選手に代わり有坂梓選手と竜宮寺刹那選手です」
辺りは砂と人工的に起こされた風による砂埃が舞っていた。砂埃のせいで視界がかなり悪く、周りに何があってどこまで続いているのかがさっぱり見えない。
「まぁ見えなくても、魔力はある程度感じるんだけどね」
「ふーん、一年にしてはやるね」
辺りを舞う砂の中から現れた人影、トレス校の二年椎名珠。
「君は文字を持ってないって聞いてるんだけど、どうなの?」
「さてね」
でも、と続けた後私は構えていた右手を動かす。それと同時に砂の中に隠れていた私の人形が椎名に向けて襲い掛かる。
「…」
椎名は何事もなかったかのようにその人形を蹴り飛ばし私との距離をとる。
「傀儡魔法か、珍しいね」
私はすぐさま人形、マイスターV1を自分の近くまで移動させる。
「でもまさか砂の中に人形を既に仕込まれていたなんてね」
「私はね、何事も計画通りに進まないと気が済まないたちなのよ。だから」
私の指からマイスターV1に繋がれた魔力糸を操作し、マイスターV1の服の裾から、、魔力で作られたミサイルを撃つ。
「すべて計画通りことを進ませてもらうわね」
「何が計画通りなんだよ」
そういって椎名は左手を軽く振れば、砂が魔力ミサイルを包み込み、砂の中で爆発する。
「でも君って控えだったでしょ?なのに俺の対策なんてしてたの?」
「ふふふ」
青い魔力の糸を吊らしながら私は気分よく笑う。
「私は計画性のある女だからね。全ての種目で全ての選手と戦うパターンを全て用意しているわ。もちろん貴方とも」
でも計画通りにいかないとすぐに諦めちゃうんだけどね。校内戦の時みたいに。あの時も私が梓に勝つという前提条件が必要だった。なのに梓との試合で負けてしまった。私が校内戦一回戦で降参した直接の理由はそれである。
「じゃあ、俺はあんたの計画を潰せば勝ちか」
そう言いながら椎名は腰にぶら下げていたマグナムを構えた。
「こいつは俺も持論だが、切り札は最初から見せつけるもんだ」
「な…」
詠唱爆銃に装填された銃弾が私の体を容赦なく撃ち抜く。その衝撃で軽い私の体は何のためらいもなく宙を舞い、そのまま壁に叩きつけられる。その体はピクリとも動かず、椎名はそれを確認すれば砂に魔力を集中させ、刃のようなものを作り出す。
「あっさり終わっちまったが、こんなもんだ。詠唱爆銃の装填弾数は5発。残り弾数4発もあれば他の二人くらい…」
砂で作りだした刃で椎名は私の頭につけられた風船に狙いを定める。
「文字なんてなくても、やれるんだよ…」
「へぇ、俺の相手は腰抜けの有坂じゃなくてお前かよ」
リョウ・ティルギウス、金髪の彼は片手で指の骨を鳴らしながら梓とは違う赤い炎をまとっていく。
「…梓は腰抜けなんかじゃない」
「けっ」
「…」
私は数度深呼吸してからふたつの銃を握りなおす。
「…お前は確か」
「え?」
「しずのの妹じゃねえか」
「っ!?」
その言葉を聞いた瞬間私は無意識にリョウに対して詠唱銃を放っていた。
「その名前を口にしないで」
「…」
リョウのつばを飲み込む音が急に静かになった砂のまうフィールドで響く。
「シズ・ランバートはただの裏切者よ…」
「へ、いい目になったじゃねえか」
リョウの目つきが一瞬にして変わり、そのまま両手に炎を出しながら踏み込んでくる。
「甘い」
私の魔法。加速で体感sp九度を加速させ、リョウの攻撃を見極めかわしていく。
「流石に詠唱銃をヘッドショットすれば、気絶するはず…!」
「おめえの方が甘えんだよ、うんち」
その瞬間リョウの体から上記のようなものが噴射される。その蒸気の熱さと勢いに私は銃を撃つことなく後退する。
「灼熱の魔法が炎を出すだけだって誰が言ったんだよ?」
「くっ…」
撃ち抜こうとしていた左手が軽いやけどでジンジンする。
「さてと、澪田深雪だっけか?はじめっぞ、本当の戦いを」
「起きているのだろう、トール」
瑞季と凪木の眠る医務室で金髪の女性がいた。凪木は体を起こすが瑞季は不思議と起きることはなかった
「…ウルド」
「九鬼門からの指令だ」
ウルドと呼ばれた女性の口からその言葉が放たれる。
「―――」
「…了解した」
「理解の早い奴は嫌いじゃない」
そういって金髪の女性は背を向ける。
「ウルド」
「なんだ?」
「…―――」
「…わかった、では他は私たちに任せろ」
そういってウルドは再び背を向け、医務室を出ていった。




