17話 独心術
「本当にいいんですね?」
「いいよ、うちを信じて」
瑞季の言葉に凪木は小さく頷けば、右腕にはめられたブレスレット型の魔導器に魔力を込める。と同時に凪木の全身が雷で覆われ黒かった髪が金色に染まっていく。
「ふーん、それがなっきーの魔法?」
「ええ、雷光っていいます」
バチバチと大きな音を鳴らす凪木の前に立つは、トレス校の生徒。
「ソーンさんとシャルティアさんだね、お手柔らかに」
ソーンと呼ばれた女性とシャルティアと呼ばれた男性は凪木の姿の変容に喉を鳴らしていた。
「うちの独心術ならなっきーの動きを全部読んだうえで、空中歩行で着いていける」
「…」
凪木は無言のまま視点を瑞季からソーンとシャルティアの方に向ける。
「空中歩行なんかで着いてこれないけどな…」
「ん?」
凪木は聞こえるのか聞こえないのか、それくらいの小さな声でぼそりと呟く。それに反射的に瑞季は声を上げた。
「いや、何でもないです。行きますよ」
競技開始の合図が鳴るのとほぼ同時に凪木と瑞季の姿は捉えることすらおこがましいほどの速さで姿を消す。次に2人の姿を捉えることが出来たのは、既に凪木がシャルティアの腹部に拳の一撃を与える姿だった。
「かはっ…」
「シャル…!」
重力捕縛、重力魔法の類いの1つで重力で対象の身動きを取れなくする魔法。ソーンがそれを発動させれば凪木と瑞季の動きが一時的に止まる。
「くっ…」
「喰らえ」
腹部を押さえながら、シャルティアは両手に魔力を集中させる。蒼い魔力は槍のような形となり、シャルティアはその魔力を重力捕縛で身動きの取れない凪木に向ける。
「蒼槍一閃ッ!」
「っざけんなよ…!」
槍が凪木を貫く直前でそれは現れた。マグネットフィールド。強力な磁場結界で、魔力で作られた磁場よりも小さな魔力の全ての軌道を変える結界魔法だ。
「だが、二撃目は耐えれるかな?」
そう言いながらシャルティアは2発目の槍を既に形成を終えていた。それを再びマグネットフィールドを展開する凪木に向ける。一撃目の蒼槍一閃を受けきれずにいる凪木はその蒼い槍に苦虫を噛み潰したように表情を曇らせる。
「えっ?嘘っ!?」
その刹那、まるで最初から重力捕縛がなかったかのように凪木の姿が消える。凪木が消えたのと同時に瑞季の不意を付かれたような言葉と蒼い槍がマグネットフィールドとの反発をやめそのまま壁に向かって真っ直ぐ穿ち、壁に直撃し大きな音を鳴らす。
「な…奴はどこに…!?」
「雷の…」
凪木の声のした上空へシャルティアはすぐさま目を見上げた。そこには左腕で瑞季を抱え、右手の拳に巨大な魔力を込める凪木の姿があった。シャルティアは構えていた蒼い槍をすぐさま凪木の方へ向ける。
「なっきー、その魔力…!」
「剛腕…!」
凪木の突き出した右腕から放たれた雷の一撃はシャルティアの放つ槍をいとも簡単に破壊し、そのまま地面を抉る。その威力を察したソーンとシャルティアは距離をおき凪木の雷の剛腕をかわす。
「なんだ…こいつ」
凪木は全身から電気を放ち、そこから生まれた磁力を利用してゆっくりと地面に足をつく。
「なっきー、今の魔法…」
「…」
瑞季の言葉に凪木は黙り込んだままソーンとシャルティアに向けて拳を構える。
「今のって…」
「神話魔術に近い術式に見えたな」
観客席で深雪と和音、梓がその戦いの様子を眺めていた。
「神話魔術って、なんなんだよ?」
「…」
梓の言葉に和音は小さく1度ため息をつけば、再び喋り始める。
「神話魔術というのは普通の魔法と違って特殊な術式によって放たれる通常の魔法とはケタ違いの威力を持つ魔法だ。お前の聖剣ならざぬ焔の翼も神話魔術の1種だ」
「なるほど」
納得したように梓は腕を組みながら頷く。
「だが妙だな」
「え、何が妙なんですか?」
和音の言葉に深雪は小さく首を傾げる。
「神話魔術を使えるのは、聖字を持つ文字持ちのみだ」
「…」
凪木は自分の右腕についた魔導器を眺めながら表情を鋭くする。
「次は外さねえよ」
「なっきー、策がある」
今にもソーンとシャルティアに飛びかかりそうな凪木の肩を掴み、瑞季は凪木を制止する。
「重力捕縛、まだ残ってる。あれを利用する」
「…なるほど」
凪木は小さく頷けば地面に拳を叩きつける。
「大地に眠りし自然の力よ、我にその力を貸せ」
凪木の詠唱に反応して大地が揺れる。そして徐々に電磁波が会場全体を覆う。
「会長、堪えて下さいね…!」
「生徒会長を舐めないで!」
会場全体が電磁波によりビリビリと鳴り渡る中、凪木は再度瑞季を抱えながら上空へと飛び出す。




