16話 狙撃
「ルールには相手に攻撃してはいけないなんて、なかったわよね?」
「なっ!?」
カーテンコール、碧の魔法がゾーンに向けて降り注ぐ。直撃こそはしていないものの、ゾーンは身動きを取れる状態ではなかった。
「なら…!」
そういって宇惠は構えていたスナイパーライフルをベルの方に向ける。だがそこから放たれた攻撃も全て碧は狙撃の魔法を使い相殺していく。
「すごい、狙撃系の詠唱銃って弾が早くて細いのにそれを相殺するなんて…」
観客席で碧たちを見ていた深雪が言葉を漏らす。
「碧の魔法はただ単に魔力を撃ち出す魔法じゃない。目標に対する狙撃の距離、角度、それらすべてを魔法によって計算することのできる私たちとは少し違う魔法なのだ」
強いて言うのなら、セミオート式のライフルのようなもの。和音はそう付け加える。
「く…くそ」
碧は攻撃をやめることなく、宇恵の狙撃も碧の魔法によって全てが相殺されていく。まさにただの魔導士と文字持ちの魔導士の決定的な差がこの会場には一目瞭然のようにみせしめられる。ベルもそのことを気にせず、壁を登り続けていく。既にベルとゾーンの差は圧倒的で、ベルがしばらく立ち止まらないと普通に登っても追いつかないほどの差が出ていた。
「ベル、このまま登り切って私たちの勝ちよ―――っ!?」
その時だった。碧の頭部に大きな衝撃が走り、碧はそのまま床に突っ伏してしまった。
「はぁ、はぁ。ルールには相手に攻撃してはいけないなんて書いてなかったんだよね…?」
狙撃型の詠唱銃を片手に横たわる宇恵は息を荒げながら立ち尽くす。碧の頭からは血が流れており、その宇恵の持つ詠唱銃で直接殴られたのだろう、銃には血がついていた。動く気配がなかった。
「み…どり?」
それを壁から見ていたベルは一瞬固まるもすぐさま登っていた壁から手を離し、人間離れした動きで壁を降りていく。
「碧―っ!」
ベルは横たわる碧の体を起こし、ポケットからハンカチのような布で血の流れる頭を押さえる。
「ベル、碧!」
控え室で見ていたであろう瑞季と凪木も会場に姿を現す。
「待ってください、今は競技中で…」
「選手がそれどころじゃないだろ、どけよ!」
凪木は審判を無理矢理突き抜け、瑞季と共にベルたちの元へ寄る。
「会長、碧が…」
ベルは蒼い瞳から涙を浮かべながら瑞季に碧の体を預ける。
「大丈夫、すぐ治療すれば問題ない。それより…」
瑞季は碧の体を抱えながらも横で立ち尽くしていた上の方を睨みつける。宇恵は手を震わせながらまだ息を荒げていた。
「…」
瑞季は無言でそのまま治療室へと向かった。
「せっちゃん、碧は大丈夫なの…」
「もう大丈夫ですよ、応急処置はすませましたし」
学科が医療科である刹那は手際よく止血を済ませ、碧の頭部に包帯を巻いていく。当の碧は目を覚まさなかったが、それでも呼吸が安定しており刹那も命に別状はないと零す。
「でもこれで私たちは不戦敗」
「…」
深雪は眼を鋭く細めながら瑞季の言葉に歯を食いしばる。
「ここから二連勝しないとトレス校には勝てない…」
「勝つさ」
凪木は拳を強く握りしめながら、医務室を出ていく。
「…」
「瑞季」
そう言いながら瑞季の肩に手を置いたのは和音だった。
「凪木のこと、しっかり見張っておけよ」
「…」
瑞季は無言で和音の手を払いながら凪木に続くように医務室を出ていく。
「…なにやってんのよ、あいつ…」
「会長」
会場につながる通路の角で瑞季を待っていたのか凪木が壁にもたれかかっていた。
「俺、本気で行きますから」
凪木はまだ会場に到着すらしていないというのに全身から電気がバチバチと漏れ出すように発する。そう、まるで電気が体内から出てるかのように。
「…そういえばなっきーの戦ってるところってべるたん以外見たことないんだよね、楽しみにしてるよ…?」
「…楽しみにするほどのもんじゃないですから」
本線二回戦、種目内容はソウルタッグバトル。お互いのチームメイト同士で手錠を繋いで戦う種目。手錠の長さは約3mほど。一人が動きすぎると一人が引っ張られてしまうため、かなりチームワークが大事になってくる。
「まいりました」
「あれなっきー、さっきの勢いはどこに行ったの?」
「…俺が近接戦闘型の魔導士なの知ってるでしょ…」
「あー」
といいながら瑞季は手錠をつけ、もう片方の手錠を凪木に差し出す。
「好きに暴れていいよ」




