15話 本戦開始
三学期、正月が明けて学校が始まった新学期に転校生がやってきた。
「はい、みんな席につけ」
教師の言葉にセプティマ校一年訓練科の生徒は各々自らの席に座る。ベルも例外ではなく自分の席にいつもの日常のように座る。
「変な時期だが今日は転校生を紹介するぞー」
転校生、稀に事情があってガービアから別のガービアまで移り住む人というのは存在する。その人は例外なく、みな転校生となるのだ。
「…」
綺麗な蒼色の髪、引き込まれてしまいそうな綺麗な瞳。ベルは彼女に見惚れてしまっていた。
「えっと、初めまして。うちセクンダガービアからきた武音碧っていいます。よろしくお願いします」
それは、まだ碧とベルが出会ったころのお話。
「うっし、んなら碧いこか」
「うん…」
種目、タッグクライミング。ルールは一人が壁を登り一番上までめざす。もう一人は下で待機。上に登る選手に目掛けていくつかの罠が迫る。舌で待機している選手はそれを破壊して壁を登る選手が一番早く上に着いた方が勝ちというもの。
「トレス校の選手は…」
碧が対戦相手であるトレス校側の壁に目をやる。そこには小柄な女性とすこしがたいのいい男の二人がいた。
「名前は宇恵とゾーン、どっちも無名の選手だよ」
「無名なんは碧も同じやん?」
「…」
碧は小さく溜め息をつけば再び壁の方に目を向ける。
「それより、いくよ」
「あいよ」
そのやり取りを観客席で眺めていたのは、次の種目で控室にいる瑞季と凪木以外の深雪達5人だった。
「そういえば私、碧先輩とベル先輩の魔法知らない」
「そういえば二人の魔法は鍛錬を受けた刹那と凪木以外見てないのか」
「あと予選で一緒だった俺」
そう言いながら予選で的当てに参加していた梓が手を上げる。
「碧…先輩の魔法なんだけど、すごかった」
「すごかった?」
とても短くつまらない感想に深雪は顔をしかめながら首を傾ける。
「そういえば一年生組は知らないんだっけ」
琉依は言葉の間に少し間をおいてからこう呟いた。
「二人とも聖字を持つ、文字持ちだよ」
「それでは両者、位置について…」
審判の言葉と同時に壁を登るベルと男―――ゾーンが壁に手をかける。
「用意…どーん!」
気の抜けるような掛け声と同時に二人はどんどん上に登っていく。すると上から小さな岩のようなものが数個、壁を登るベルたちに目掛けて降ってくる。
「…ベル、そのまま進んで」
「おっけー」
ベルは岩が降ってきているにもかかわらず、岩には目を向けずにただひたすら登り続ける。だが降ってきた岩はベルに触れることなく、爆散した。
「…ふぅ」
続いてベルに向かって連続で無数の岩が降り注ぐ。だがベルに当たる前に、碧の周りから放たれた魔力の塊が岩を破壊していた。魔力の塊、そう呼ぶべきなのか。それとも魔力のビームと呼ぶべきなのか。
「さすがやな、碧の狙撃は」
笑みをこぼしながらも碧は次々とベルに襲い掛かる罠を破壊していく。だがそれはトレス校も変わらずだった。宇恵はスナイパーライフルのようなもので次々と岩を破壊していた。碧よりは連射速度がない分、岩が落ちてきている間はゾーンは身動きがとれておらず、ベルとゾーンの差は大きくなっていた。
「ベル、少し止まって」
「ん?」
ベルは碧の言葉を聞けばいったん足を止め、先程まで見上げていなかった上を見上げる。すると上から今まで落ちてきていたいわとは比べ物にならないくらい大きな岩が落ちてきていた。
「ベル、あれを使うから少し堪えて」
「あいよ」
「天かける漆星の参、名は煉獄」
ビームというには太く、そして大きな十字の形をした魔力の光が真っ直ぐ大きな岩に目掛けて放たれる。
「ディバイン・クロイツ…!」
光はそのまま、岩を砕きベルの道を作り上げる。
「ベル、行って…!」
「くっ」
隣で宇恵が焦りを感じたのか、言葉を漏らす。だがそれでも構わず碧はSの聖字、狙撃による攻撃の手を休めることはなかった。
「それと…」
碧は今までベルの方に向けていた手を、徐々にベルに追いつこうとしているゾーンに向ける。
「天かける漆星の肆、カーテンコール」
それはまるで魔力のカーテンのように狙撃によって作られた魔力がゾーンの周りを覆う。
「んな…」
「ルールには、相手に攻撃してはいけないなんてなかったわよね…?」
その碧の微笑みは悪魔の微笑みにも見えてしまうほどに、美しいものだった。




