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魔法と神とそれから人  作者: 穏乃
校内戦編
14/33

14話 本戦前夜

「なんか、思ったより簡単だったな」

 控室に向かって歩きながら、梓はぽつりとこぼす。

「対校戦の的当てっていうからもっとお難しいもの想像してたら、まさかあんなゆっくりの的だなんてな」

 でも、と梓は続ける。

「もっと驚いたのは、あの的を他の奴らが当てれてなかったことだな」

 対校戦予選の的当ての結果は、セプティマ学園の圧勝だった。全部で50個の的にめがけて魔法で壊していくというルールなのだが、セプティマ学園は三人ともすべて破壊し150点。他の校は壊せても30個ほどで、何処も平均が100前後だった。ただトレス学園だけが140個とセプティマ学園に並んで点数を稼いでいた。

「なんかその顔だとそっちも同じ感じっぽいわね」

 通路の角で腕を組みながら待ち構えていたのは梓と同じく一年の刹那だった。

「自分の成長振りに驚いてない?」

「ん、まぁ」

梓は控え室へ足を運びつつも首を左右に音を鳴るように曲げながら答える。

「先輩の鍛錬が無かったら私達も、予選落ちだったのかもね」

「みんな」

控え室の扉を開くと、既に種目を終えた瑞季と凪木、深雪が控え室で待っていた。

「予選快勝を祝いたいところだけども、本戦について話したいことがあるの」

瑞季のその言葉に全員の顔つきが一瞬で変わる。対校戦の本戦は予選のようなお遊戯とは違い、上位二校による正式な戦いによって行われる。合計三つの種目で先に二勝した方が勝ちとなる。

「トレス校、明らかに手の内を隠して予選を突破してる。加えて他校のバンクを見れない以上、相手がどんなことをしてくるのか全く予想できない」

「でも瑞季会長や和音先輩なら過去に戦ったことがあるんじゃないのか?」

凪木は部屋の隅で腕を組みながら言葉を漏らす。

「馬鹿野郎、魔導師ってのは一年ありゃかなり変わる。聖字(ルーン)使うやつは分かるが、あくまで分かるだけだ」

「それを踏まえて、私と瑞季と和音作ったこの資料に目を通して欲しい」

琉依の手から渡された資料には3人の過去の戦闘データが詳しく書かれていた。シズ・ランバート、リョウ・ティルギウス、椎那(しいな)(たま)の3人。

「あれ、この3人だけなんですか?」

「残念だがトレス校はこの三人以外、対校戦初参加のメンバーだ」

「な…」

その事実に深雪達は絶句する。トレス校といえば何年も連続で本戦に出場している強豪校。対校戦自体一年に二回あるのでそれほどの強豪校なら今回の対抗戦の出場生徒もほとんどが出場経験があると思っていたのだろう。なのに半分以上が深雪たちと同じ無名の選手なのだ。

「ならせめてこの三人の対策もしとかねえとな」

そう言って梓は渡された資料をじっと眺める。リョウ・ティルギウス、Hの聖字(ルーン)を持つトレス校の二年。去年の対校戦にも参加しており、その魔法は灼熱(ザ・ヒート)。自由自在に炎を操る魔法。二人目も同じくトレス校二年、名前は椎那(しいな)(たま)。過去のデータには斬撃を飛ばす魔法と詠唱爆銃(スペルマグナム)と呼ばれる武装魔導器を使って戦う魔導士。そして同じ二年、シズ・ランバート。Cの聖字(ルーン)変換(ジ・コンバート)の使い手であるが、その魔法の詳細はあまり詳しくは書かれていなかった。

「…剣を生み出す魔法…?」

「去年の対校戦で私は彼と戦った」

 そういったのは、和音だった。

「あいつと手合わせした時、何もないところから剣を生み出していた。どういう条件で生み出せるのかわからない、だが奴は強い…」

「そこで、明日のオーダーなんだけども」

 瑞季はそう言いながらもう一枚に髪を全員に配っていく。

「明日のオーダーはこれで行きたいと思ってる」

「は…?」

 声を漏らしたのは梓だった。紙に書かれていたのは、タッグクライミング(べるたん、ぶおんちゃん)。タッグソウルバトル(うち、なっきー)、トリプルバルーンバトル(るいるい、みゆみゆ、かのっちょ)。控えは二人。梓と刹那はその控えに入っていた。

「ちょ、会長なんで俺が控えなんだよ!」

「…」

 瑞季は小さく溜め息をつく。

「かのっちょから聞いたんだけど、聖字(ルーン)を自分のものにできてなかったんだって?」

「っ!?それは…」

「まだあーちんは未熟だよ、だから今回は参加するべきじゃない」

「―――っ」

 その言葉を聞いた梓は拳を強く握りしめ、歯茎から血が出そうなくらい歯を食いしばれば走りながら控室を飛び出す。

「ちょ、梓!」

「ほおっておけ」

「和音先輩…」

 刹那は飛び出した梓を追いかけようとするも、和音の言葉に足を踏みとどまる。

「お前自身はどうなんだ、控えに納得いってるのか」

「…」

 刹那は少し間を開けてから、小さな声で言葉を紡ぐ。

「これでいい、というば嘘になります。でも私は一年だし訓練科でもない。仕方…ないですよ」

 その言葉は少しずつ震えた声に変わっていくのが、安易に分かってしまう。刹那もそう言葉を残すと、部屋に戻りますという言葉だけ残して控室を出ていく。

「…気にしない、あなたたちのせいじゃないから」

 残された一年生の二人、深雪と凪木は重い空気の中で表情を曇らせていた。その二人に碧は深雪の背中を優しくなでながら二人に声をかける。

「あの二人の分も、うちらで暴れんで碧」

 そう言いながらベルは握りしめた右こぶしを左の手の平にたたきつけた。


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