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魔法と神とそれから人  作者: 穏乃
校内戦編
13/33

13話 対抗戦予選2

「的当てって言っても、魔法を使ったやつだろ?」

対校戦の予選の一つ、空中的当てに参加する1人である梓は悪態を付きながらも会場へと続く通路を歩き、会場に向かっていた。そんな梓の横で苦笑いをしながら歩いていたのは、梓の所属する風紀委員の委員長を務める三年生の少女、渡辺琉依だった。

「琉依先輩の魔法を見たことがないのですけど、どんな魔法雨を使ってるのですか?」

んー?と碧の言葉に小さく首を傾げながらも琉依はローブ状の制服を捲り上げ、太ももに身に付けられた魔銃が収納されたホルスターを見せる。

「深雪ちゃんと被ってるけど、私も魔銃使いなんだよね。深雪ちゃんと違ったタイプだけどね」

「ふーん?」

梓は歩きながら自分の聖字(ルーン)の刻まれた右側の頬に触れる。

「そういえば梓くんって右目どうして包帯なんかしてたの?」

「それ私も気になってた、今はしてないし」

「えっ」

梓は不意を突かれたような表情で琉依と碧の方に向き直る。

「いや、まぁ…ね」

梓は二人をはぐらかしながらも足を止めることはなかった。




「なんで他校はちゃんと競泳用専用着があるのにうちはスク水なんですか?」

「他校と違ってお金がないからだ」

 ドヤ顔で巨大なプールの前に立つのは生徒会副会長の神木和音。水中競技のために本来なら水の抵抗を和らげるために専用の服が存在するのだが、和音やベル、刹那は本来学校では使わないはずであるスクール水着を着ていた。

「でもなんでわざわざスク水」

「それはな、琉依先輩の趣味やで」

「…」

 ―――そっか、琉依先輩ってそういう趣味してたんだ。

「ほら、行くぞ」

 そういって和音は何の抵抗もなく大きなプールに飛び込む。続いてベルも元気よくプールへ飛び込む。

「…ギョンギョン先輩まで。はぁ…いこっか、マイスターVR」

 そういって刹那は額にしていた水中ゴーグルを身に付ければ、包帯の撒かれた白い塊の包帯を引っ張り、それにより中の人形が露わになる。校内戦で梓との戦いに使われたぼさぼさの髪にだぼだぼの制服、顔は丸く鼻水をたらしている。刹那は勢いよく両手を振りかぶれば指先から青い糸のようなものが現れ真っ直ぐとマイスターVRに向かって伸びていく。

魔力糸(ブルーストリング)、魔力を細い糸上にして何重にもからめ合わせた糸。細ければ細いほど見えにくく、切れやすい。逆に太いほど見えやすいが切れにくい。刹那の糸は校内戦の時よりもはるかに太くなっていた。

「よっと」

 刹那もマイスターVRと呼ばれた人形とともにプールの中へと飛び込む。水の中にもぐるときの冷たい感覚に襲われながらも刹那はゆっくりと目を開く。そこはただの水中でなく、水中にきちんとゴールが置かれていた、コートだった。

「…」

「水中でもちゃんと喋れるぞ」

 本来水の中で聞こえるはずのない和音の声を聞き、刹那は恐る恐る口を開く。すると口の中に入ってくるのは水ではなく、求めていた酸素。そして口に水が入ってこないことから発することのできる声。

「それでも水であることには限らないんですね」

 水温こそは普通だが、それでもなれない水の中に長時間いることで体に疲れが出始め、体温は下がり体の動きが鈍くなるはずだ。

「えっと、和音先輩」

「なんだ」

 ベルはきょとんとした表情でコートを眺めながら和音の肩を軽くたたく。

「うちの知ってる限りやとこれ、サッカーやなくてハンドボールのコートやで」

「…」

 ―――瑞季の、バカ。と和音の小さな叫びが、プール上のコートにこだました。




「はっくしゅん」

「会長風邪ですか?」

 足取りの悪い道を走りながら深雪は隣を走る瑞季に声をかける。砂レース、フィールド全てが砂漠のような足取りで出来ており走ることが困難な場所で走って競争するというものだ。もちろんその過程で魔法を使って選手の妨害をしてもかまわないルールになっている。

「いや、かのっちょ辺りが噂してるんじゃないかな。それよりもみゆみゆ、なっきー、どう?」

「どうっていわれましてもねぇ」

 凪木は呆れた表情をしながら後ろの選手の方を振り向く。だがそこには選手はおらず、他の選手はみんな遥か後ろの方で深雪たちとの戦闘で負傷し、身動きをとれなくなっていた。

「『この一週間の成果を実感する』とはこういうことだったんですね」

 それは圧倒的だった。相手の攻撃を正確に判断して対処し、完全に無力化する。深雪と凪木はそれを実行しただけだった。実行したと言えば簡単に聞こえてしまうかもしれないが、実際同じ程度の魔導士ならここまで圧倒することはない。それだけこの二人、いや一年生の基礎的能力が向上したということなのだろう。

「実力をつけたければ実戦で学べ、私の持論だよ」

 実際この一週間一年生が何をしてきたのかというと、それぞれ個別に特殊な鍛錬を学んでいるが基本的には実戦がメインだった。倒れては立ち上がり、立ち上がれば倒れて。これをひたすら繰り返すだけの毎日だったがその分実戦を詰むことによってただ訓練を受けているだけの選手には劣らない程度にまで成長することができたのだ。

「でもここまで拍子抜けだと逆に気持ち悪いね、特にトレスが」

 トレス校。深雪たちに喧嘩を撃ってきたリョウの所属する学校。今回の種目では他校が倒されて動けなくなったのを確認してからスタートしたらしく、私たちはこのまま一位抜けなのだが恐らくトレスも二位抜け確定なのだろう。

「くわばらくわばら、どれだけ手の内を見せたくないのやら…ね」

 そういっているうちに、深雪たちはゴールへと足を踏み入れた。


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