12話 対校戦予選
「トレス学園二年、リョウ・ティルギウス。Hの聖字を持つ男…」
金髪の男は唾を吐き捨てながら深雪たちを睨みつける。
「俺のこと知ってるのかよ、なら話が早いな」
その瞬間金髪の男、リョウの周りが紅蓮に染まる。酸素が燃えているような、そんな音を鳴らしながらリョウの周りが赤い炎で燃える。
「これが俺の聖字、灼熱だよ」
「炎の魔法の聖字…だと?」
そういって立ち上がったのは先程リョウに腹部にパンチを入れられ蹲っていた梓だった。
「ざ…っけんじゃねーぞ!」
「バカ、梓…!?」
凪木の制止も聞かずに梓は両手に灼熱によって生み出された黒い炎をまといながらリョウにとびかかる。リョウはそれをいとも簡単に受け止めればそのまま梓の頭めがけて頭を突き出す。ガンッという鈍い音と共に梓の額から少量ながらも血が流れる。
「こんな炎で俺に喧嘩売るとか、燃やしてやろうか?」
「それ以上梓に何かするなら俺が相手をする」
そういって前に出てきたのは梓を制止した凪木だった。普段の凪木とは違い、いつになく表情が険しく、それが魔力に出ているのか凪木の周りの空気がバチバチと電気が音を鳴らしていた。
「いいね、お前はこいつより楽しめそうだ」
「やめとけりょうち」
その場で小さく響いた声。リョウの纏う炎の殺意が少しづつ小さくなっていく。
「んだよ、来てたのかよしずの、たま」
一人は赤い髪の少し身長の低い少年、もう一人は黒髪の青年。しずのとたまと呼ばれた二人は完全に戦意を消したリョウの元へと寄る。
「お前校内戦から退場されたいのかよ、喧嘩はNGだっての」
「けっ」
「…」
黒髪の青年、リョウにしずのと呼ばれた青年は深雪のことをじっと見つめる。
「…うちのチームメンバーが失礼した。来週の校内戦、正々堂々戦えることを楽しみにしている」
そう言って頭を下げれば、しずのと呼ばれた青年は残りの二人を引き連れてその場を去ろうとする。
「…大きくなったな、深雪」
「…」
すれ違い際に聞こえた声。深雪の表情はどんどん曇っていく。
あれから一週間が経った。とても短く感じるかもしれないが、一年生が基礎を身に付けるには充分すぎる時間だった。
「みんな少し見ない間にたくましくなったねぇ」
瑞季が一年生―――深雪、梓、凪木、刹那がこの一週間で顔つきが変わったことに驚きながらもいつもと変わらぬ口調でそう言う。
「というか梓、包帯。中二病卒業した?」
「バカ、そんなんじゃねえよ」
深雪の言葉に市ものように梓は適当にはぐらかす。そう、いつも梓が右目にまいていた包帯がなくなっていたのだ。そして校内戦で見えた赤黒い目もなくなり『F』と刻まれた聖字以外は本当に普通の目だった。
「まぁ、色々あるんだよ」
「お喋りはそこまでだ餓鬼ども、対校戦のルールを説明するぞ」
対校戦、世界の全ての学園が集まり魔導士最強を競う大会である。世界にある魔導士育成機関は全部で7か所。その全てが決められた種目で競い、上位二校が本戦進めるようになっている。一校で出場できる選手は九人、それぞれの選手が各種目に二回出場する権利を持っておる。そして全ての種目の枠は十六枠、残りの二枠は補欠となっている。
「予選の内容は三つ。水中サッカー、砂レース、空中的当てだ」
「…は?」
和音の言葉に梓は呆け顔で首を傾けた。
「子供の御遊戯かよ…」
「子供の御遊戯、ねぇ。魔法がなければそうかもしれないわね?」
「あっ…」
サッカーも競争も魔法が関わることになればただの競技ではなくなる。それはつまり、普通の子供でもできるような競技が文字通り、戦いとなるということだった。
「メンバーはバランス的に適当に割り振ったから、確認しといてね」
「確認しといてって、相変わらず適当な生徒会長だなぁ」
「…梓は的当てだね」
紙には競技とその大雑把なルール、メンバーが書かれていた。そう言う深雪の参加種目は砂レース。残り二人の一年生の二人は凪木も砂レース、刹那が水中サッカーとなっていた。
「一回戦は水中サッカー…第三会場ね」
セプティマ学園の水中サッカーのメンバーは刹那、和音、ベルの三人。
「さーて、出番やなー!」
「刹那、ベル、さっさと会場に行くぞ」
「その前に質問です」
おそらく人形が入っているであろう白い包帯に包まれた細長い塊を背に抱えながら小さく手を上げる。
「水中でサッカーって、私水中で息なんてできないんですけど」
「ああ、大丈夫。水中でも息ができるようになっている水だから」
なるほど、とだけ告げて刹那は和音とベルよりも先に会場へと足を運ぶ。
「ふふ。べるたん、かのっちょ。せっちん初陣だからしっかり見てあげてね」
「おう!」
元気よく返事をするベルに比べ、和音は小さく頷けば二人は会場へ向かう刹那を追うように踏み出す。




