10話 生徒会の日常
ガービアの外、それはユグドラシルが支配する無法地帯と化していた。草木は枯れ、大地は腐敗し、建物は崩れ、もう人類の住むことのできる世界ではなくなっていた。そのため人類は自らの生まれたガービアの外を知らない。基本的に人はガービアの外を出ることを禁じられている。唯一外に出ることを許可されているのは、魔導兵と呼ばれる魔法で戦う兵士のみである。この魔導兵は全てのガービアに設立されている魔導兵を育成する学校で育てられ、戦うすべを身に付ける。そしてガービアの周りに群れるユグドラシルを撃破する人を任され、事実上のガービアの秩序を任されるようになる。
そして俺もその学校、ユグドラシル・セプティマ学園を卒業し魔導兵で作られた軍、魔導軍に入隊した。
『松井さーん』
松井夕希、22歳。魔導軍0番隊の隊長、階級は大佐。俺の自己紹介なんてするだけ無駄だと思う。俺の情報なんてガービアに記録されているデータバンクを見ればすぐわかることだ。
『このままじゃ獲物、逃げちゃいますよー』
耳障りな声が俺の眼鏡のつるの内蔵している通信機器を通して聞こえてくる。
「ケン、座標は」
『んーと…R27、D41方向ですねー』
俺は右手に持つ槍を構えながら崩れた建物と建物の間をくぐる。
「…見つけた」
ユグドラシル。人間を模倣していながら人ならざぬ存在。だが奴らは人の姿をしていなかった。何体もユグドラシルを撃破してきたが、人の姿をしたユグドラシルを見たことはなかった。一言で表すのなら化け物。それ以外に表す言葉は恐らく存在しない。存在する必要はない。
「ユグドラシル…汚れた化け物め」
白くヌメヌメとした肌、蛇を思わせる鱗。俺はそんなものを容赦なく雷の帯びた槍で貫く。
「んな、なんだこいつの速さ…」
「ただの空中歩行だ、下衆には理解できないだろうがな」
突き刺さった槍から帯びる雷はそのままユグドラシルを感電させるほど大きくなる。
「お前…まさか黒いしにっが!」
ユグドラシルの言葉を最後まで聞くことなく、その命は当たり前のように消え去った。
「生徒会、ですか」
「正確には生徒会にはみゆみゆだけなんだけどね」
この会長が何を考えているのか、本当に分からない。私の考えていることは読まれているのに。今も私の心が読まれているのか、ニコニコしている。
「あーちんとなっきーは風紀委員に入ってもらうつもり」
「あーちん…」
「な、なっきー…?」
すごく個性的な呼び方に二人とも顔が引きつっている。
「ふ、風紀委員ってなんだよ…」
「風紀委員は風紀委員だよ」
保健室の扉が開くのと同時にまた、知らない声が聞こえた。私たちと同じ女子学生服を着た髪の長い紫がかった黒髪の女性。身長は普通の女性に比べて高く、一目見てお姉さんといった印象を受け取れた。
「るいるい」
「瑞季、その呼び方恥ずかしいって何回も言ってるでしょ」
笑みを浮かべながら、その女性はこちらに視線を向けてくる。
「渡辺琉依、風紀委員の委員長を務めてるわ」
「それからこの二人が、生徒会の会計メンバー」
そういって会長と神木先輩のかげから出てきた二人の女性、一人は元気そうな感じで」一人は大人しそうな感じだ。
「初めまして、訓練科二年の武音碧です」
「うちの名前はベル、宜しく白米やで!」
銀髪の先輩の話方が妙なのは少し気になるのはひとまず置いといて、手を差し伸べ握手を求める先輩たちに私はその手を握りしめる。
「よろしくお願いします、えっと…」
「ベルや!」
ベル先輩、と呼びたいところだがこの学校で出来た初めての先輩だ。きちんと姓の方で呼ばないとと思いながらも先輩は姓を教えてはくれなかった。
「ベル・ギョンギョンだよ」
「あ、よろしくお願いしますギョンギョン先輩」
「あ、碧あんた!ってギョンギョンいうなや!」
なんだこの漫才は。
「とにかくや、うちのことはベルでええから。ギョンギョンなんて絶対呼ぶなよ?」
「ギョンギョン先輩」
「く~~~」
今のは私ではない。ましてや梓や凪木もそんな恐れを知らないような人ではない。ギョンギョン先輩、もといベル先輩は言葉で表すなら「きー」っという表現がお似合いなほどに足を地団駄させている。そんな中に新たに保健室に女子生徒が独り入ってきた。襲わく声の主であろう。
「先輩に敬意を表しているんですよ」
「あっ…」
学生服にボブショートの金髪、私たち訓練科一年と校内戦一回戦で当たった医療科一年の一人。
「竜宮寺さん」
「どうも」
「なんでお前がここにいるんだよ」
そういって竜宮寺さんに突っかかったのは梓だった。
「なんでって、そこの生徒会長さんにスカウトされたからよ」
そういって竜宮寺さんは会長を指さす。対する会長は調子を乱すことなく未だに笑みを浮かべている。
「せっちんの実力だけど、あーちんにはまだ見せてないものがあるらしいの」
「は?」
「それと状況判断能力、この子は聖字を持ってないけど、かなり優秀な魔導士になる素質があると思うよ」
竜宮寺さんはその褒め言葉に対して照れるどころか、ぷいっとそっぽを向く。会長もそれには苦笑いする。
「せっちんとみゆみゆには生徒会書記を務めてもらおうと思う」
先輩二人が会計なら確かに書記が足りない。でも初期二人とも一年に任せて大丈夫なのかな。
「この九人で対抗戦に挑むんだけど、その前に言い忘れてたことがあるんだよね」
「なんですか、瑞季さん?」
碧先輩はかわいらしげに首をかしげる。
「三日後、学校出発だから」
「…」
その言葉を聞いた瞬間物理的に寒くなった。ぴしっという音も聞こえたあたり、神木先輩が無意識に魔法を使ってしまったのかもしれない。




