1話 澪田深雪-1
魔法、それは人間の中にある秘められた力と魔導器と呼ばれる機械を使って生み出される奇跡の産物。だが人類は魔法を会得したことにより戦争が起こり多くの人間が死亡した。人類が半分近くにまで減った時にその事件が起こった。
神の粛清。のちにユグドラシルと呼ばれるようになる人の形を模倣していながら、魔導器なしに魔法を行使する神の存在に人類は絶滅の危機に追いやられる。やがて人類は世界の各所に魔力を無効化する大きなドーム状の街を作り上げ、ユグドラシルからおびえる生活を送っていた。だがユグドラシルは人類にチャンスを与えた。
『お前たちに我々と同じ力を与える。お前たちが力を一つにし、我々に打ち勝つことができるか?』
全世界で使われるアルファベット文字をもじった26の力が人類に与えられた。人体のどこかにそのアルファベット文字が刻まれ、その者だけが神の力を行使できる人類。この文字を人々は聖字と呼ばれ、聖字を持つ人間のことを文字持ちと呼ばれるようになる。
魔法歴103年、いつしか人類はユグドラシル打破のために各地に魔法の教育機関を作り出す。この物語はその学園の一つ、ユグドラシル・セプティマ学園に在学する少年少女たちの物語である。
この狭いドーム、ガービアの中でも季節というものは存在する。セプティマ・ガービアはかつて日本と呼ばれた国の人が多く集まってできたガービアのためか、日本の文化が多くあり、季節に咲く花も日本の物が多い。なので今年の春もきれいに桜の花が満開に咲いていた。そんな中を歩く紺色の髪をした少女。彼女の名は、澪田深雪。今日からユグドラシル・セプティマ学園、通称セプティマ学園に入学する生徒の一人だ。このセプティマ学園には三つの学科がある。魔法を使うために使用する魔導器を制作し、調整する技術と知識を得る学科、技工科。魔法を使って怪我した人を癒し治癒する術を得る、医療科。そして戦闘技術を得るために自らを鍛える訓練科。
「ええ、新入生のみなさん入学おめでとうございます」
入学式。どの学校にも存在する新入生を歓迎する式である。
「さーて、新入生のみんな。これから三年間ここで魔法を学んでもらうことになる」
セプティマ学園に限らず、どの魔法教育機関の学園も訓練科を希望する人は少ない。医療科や技工科は二組以上存在するが訓練科は毎年人数が少なく、一年から三年を合わせても合計三組しかない。当然だ。訓練科を希望するということは卒業後ユグドラシルと戦う兵士となり、人類のために命を投げ捨てるということだ。命を投げ捨てるという表現だと無駄死にのように聞こえるかもしれない。だが実際そうだ。ユグドラシルの前に人はあまりにも無力だ。それは恐らくすべての人類が理解していることである。聖字を得てなお人々がこんな無駄なことをしているのは結局、こんな状況になっても団結できず己のことしか考えていないからなのかもしれない。
「次、お前だ」
そんな新入生訓練科は自己紹介をしていた。
「有坂梓だ」
右目に包帯を巻いた彼はそういった、その瞬間教室が軽くざわついた。まぁ普通に考えておかしいだろう。包帯で目を隠すなんてどう見ても、中二病だ。かわいそうに。
「…今年の春の校内戦に参加するつもりだから、その気のある奴は声をかけてこい」
校内戦、それは春と秋に行われる対抗せ戦に出場するメインとなる選手を決める校内大会のようなものである。訓練科を志望する人ならだれもが参加を志す。だが魔法というものは基本入学してから学び、自分の魔法を獲得してから参加するものである。なので本来なら校内戦に参加するのは秋の校内戦以降になる。だが訳があり入学する前から魔法を使える新入生が稀にいる。彼、有坂梓はそのイレギュラーということだろうか。それにしても校内戦は三人一組での参加が義務付けられている。新入生に三人も魔法持ちがいるとは思えない。『私』を含めても二人、さすがにもう一人いるなんてことはないだろう。それでも私は校内戦に参加できるチャンスがあるのなら、ぜひ参加したい。訓練科に進んだ生徒として。
自己紹介が終わり、お昼休憩の時間になる。他の生徒が食堂へ足を運ぶ中、一人教室に残る有坂梓に近寄る。
「同じ訓練科の澪田深雪、校内戦に参加希望…してる」
有坂は私の顔をポカーンとした表情で眺める。数秒してから有坂は自分の髪をガシガシを掻き、再び私の方に目をやる。
「澪田…ねぇ」
「私も、あなたと同じ入学前から魔法を持ってる身だから」
その言葉に有坂は少し驚くかのように一瞬目を見開ければ、再び先程から私に向けていた鋭い目つきに戻る。
「いいね、今年の新入生は面白いのが多そうだ」
有坂はそう口にしながら椅子から立ち上がる。