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少年少女青春談話。

境界線ライアー

作者: rai

貴方のことを誰よりも愛してる。

ずっとそばにいたい。

だから、私はーーー





『君の優しさが大好きです。』





麻里奈まりな


心地よいテノールが響く。

振り返れば仏頂面で佇む少年、冬都ふゆとがいた。

仏頂面じゃなければかなり美形なのに。

とか、くだらないことを考えた。


「いま帰り?」

「うん」

「じゃあ、一緒に帰ろう?」


私がそう言うと、冬都は小さく頷いた。

微かな頷きだけどこれが冬都の肯定のサインだと私は知ってる。

別に私達は付き合ってる訳では無い。

それに私は冬都に恋慕を向けたいとは思わない。


でも。中1の秋からだというのに、私と冬都はかなり仲良くなれたと思ってる。

自惚れなんかじゃなくて。


「引退すると練習無くてつまんねーな」

「私はたまに参加してるけど…」

「何それ、俺初耳なんだけど」


そう言って私はクスリと笑う。

冬都はさらに仏頂面になる。


「俺誘えよ」

「勉強。」


私がそう言い放つと冬都は黙り込んでしまった。


冬都は陸上部。私はマネージャー。

体が丈夫では無くて、選手になるのは止められてしまった。

でも、どうしても諦められなくて無理を押し切ってマネージャーになった。

親の転勤で途中編入だった私と親しくしてくれた祐里ゆうり来花らいか

あの2人の可愛さったら半端ない。

そして何故か仲良くなっていた冬都。

こいつとは何がキッカケだったのかすら覚えていない。

あぁ、可笑しな話だな。



「あれ、来花じゃね」



思い出に浸っていた私の意識は、冬都の呟きで戻される。

前を見れば、来花が乙女な笑みを浮かべて高校の制服を纏う希羅きら先輩と会っていた。


「約束してたのかな?」

「来花達なげーよな」

「もう2年は経つよね」


短い会話を終えて、私達は顔を見合わせた。

その直後にクスクスと笑い合う。

すると冬都はそのまま、更に口角を上げた。

この笑い方。

どうせ、また突拍子も無いこと言い出すんでしょうね。


「何か、企んで?」

「その通り。つけるぞ」


悪趣味だなぁ。

想像通りではあったんだけどね。


「走るの?」

「走らなきゃ追いつけねーだろ」

「あはは、無理かな。」


私は苦笑いを添えて返事をした。

つけたいのは山々なんだけどさ…。

少しでも走り過ぎると、最悪倒れてしまう。

それに冬都のペースだし…。

絶対に無事な訳が無い。


冬都はそんな私を見て、小さく舌打ちをすれば、そのまま走り去ってしまった。


まぁ、そうなるよね。

別にこれも想定内なんだけど。


本当に、自分勝手なんだから。


泣いたりなんかしない。

冬都が自分勝手なことなんて、ずっと前から知ってたし。


今更、だよ。


泣かないよ。泣かない、けど。

私だって、好きで病弱に生まれたわけじゃないのに。

出来ることなら思いっきり走りたいよ。

解ってるけど、傷ついたりは、するんだよ。


それくらい察してよ、ばか。



泣きそうになってしまった。

泣くな。

誰が悪いわけでも無いんだから。

私は前を向いた。




チリンッ。



細く凛とした高い音のベルが後ろで鳴る。

音のした方を向けば、少し息を切らした冬都が自転車にまたがっていた。


「え…。なんで…?」

「乗れよ」


乱れた息で冬都は荷台を指差す。


「さっきごめん。お前走れないのに。

…乗るくらいなら負荷かからないだろ?」


そう言って、私を覗き込んでくる冬都。

反則じゃないかなぁ…。

この落とした後に、優しくするのって。

こんなの、普通の女子なら惚れるのかな?


「早く」


乗れ、と声と視線で促される。

でもさ冬都。


2人乗りってダメじゃないの?


とか、心配になってしまうのですが。

恐らく私の顔には、また苦笑いが張り付いているだろう。

冬都の顔が呆れの域に達してるもん。


「ーったく、来花達見失うだろ」


そう吐き捨てると同時に、自転車のスタンドを立てる。


そこからの動きはあまりにも滑らか過ぎた。


まず、当たり前の様に私のリュックを掴み取り、籠に入れる。

そしてその後、私を抱え上げて荷台に乗せる。


「ちょ、冬都!?」

「暴れんなよ、つか軽」


私の抵抗など虚しく。

軽く持ち上げられた挙句、有無を言わさず2人乗り決定。


「みつかったらどうすんーーうわぁっ!」


私が不満をぼやくと、冬都は自分の上着を脱いで私に投げつけた。


「うるせーよ。

つかそれ着て、学校特定されないようにしとけ。

それと、絶対に体を冷やすんじゃねーぞ」


それだけ言って、冬都は自転車に乗る。

多分抵抗しても無駄だと悟った私は、大人しく上着を着た。


「掴まっとけよ」


そう囁くと、冬都は自転車を漕ぎ始めた。

私には、降りる選択の余地もなく。

仕方なく冬都の体にしがみついた。


上着から、本人から香る、冬都の匂いが鼻腔をくすぐった。

やっぱり落ち着くな、この匂い。

冬都の匂いは、大好きだ。



「麻里奈」


ふと、冬都に名前を呼ばれる。


「何?」

「なんでもない」


そう言って、冬都は笑った。


「変な冬都ー」

「うっせ」

「ねぇ冬都?」

「何?」

「この自転車、どうしたの?」


私が興味本意で聞くと冬都は少しだけ固まった。

あぁ、またか。


「どうせチャリ通したんでしょ?」

「……。」

「どうなの?」

「遅刻しそうだったんだよ!」

「校則いはーん!」


うっせー!と叫んだ冬都。

まぁ常習犯なんだよね、この人。


「寒くねーか?」


話題を逸らすかのような、尋ねる声が聞こえる。


「へーき!」


私は聞こえるように、大きい声で答えた。

冬都はゆっくり頷いた後、少し低いトーンで私に言った。


「麻里奈は、無理するようなやつだからな」


『バカじゃねーの!?無茶すんじゃねーよ!

自分を大切にしろよ!』


今の冬都の言葉と1年前の冬都の言葉が重なった。



あれは、合唱祭の練習の時だったかな。

私は体調が悪くて。

でも熱は無いし迷惑を掛けたくないから、半ば無理矢理立ってた。

誰にも気づかれないように振る舞ったつもりだったんだけど。

冬都にだけは通用しなくて。

なんでそんな体調で無理するんだ、って滅茶苦茶怒られたんだった。

恥ずかしかったけど、嬉しかったな。



思い出したら、少し可笑しくって。

クスリと笑ってしまった。


「どうした、急に笑い出して」


冬都が少し不思議そうに聞いてくる。


「何でもないよー。私だけの秘密っ!」


そう言って私は息を吐いた。


「…変な麻里奈。」

「お互い様だよ。」


そう言って2人とも黙り込む。


「…来花達は?」

「見失ったな。」

「あはは、これじゃだだのドライブだね」

「自転車だけどな」

「たまには、いいんじゃない?」

「そうだな」


私は最後の言葉を発すると同時に、冬都にしがみつく力を強くした。

少しだけ、冬都の体が強張ったのが解った。



桜雪丘おうせつおかの方、行くぞ」

「冬都くんの仰せのままに。」



私ね、冬都のぶっきらぼうな優しさ大好き。

無神経なようで気の使い方が上手い冬都を尊敬する。

不器用なクセに核心をついてくるところが苦手だけど、安心してる。

冬都には嘘がつけないのは困る。


私が病弱なのを言い訳に遠巻きにしないのが嬉しい。

でも、ちゃんといたわってくれる仕草が大好き。





私は、冬都を愛してる。









だからこそ、貴方には恋をしないと決めたの。









だって、恋には終わりがあるでしょう?


私は冬都とこのままでいたい。

この関係が心地よくて、とても愛しい。


私が冬都に恋をしてしまったら、もう「同じ」には戻れない。


恋慕を向けてしまったら、壊れてしまう。


冬都に恋するのが怖いのです。

壊してしまうのが怖いのです。

それでも、私は冬都とずっと一緒にいたい。

どんな形でもいいから。


恋慕など抱かない。

抱こうとは思わない。

恋人関係など望まない。

このままでいい。



【愛】に形などないでしょう?

【愛】に定義などないでしょう?



こんな愛し方でも、いいでしょう?


世間から見たら、私の愛はいびつだと言われるのかな。

それでも、構わない。

私の愛はこれなのだから。



「着いたぞ」


冬都に声をかけられて、私は顔を上げた。


「降りるね」

「おう」


しがみついていた手を離し、地面に足をつける。

丘の上には私と冬都しかいなかった。

陽は暮れかけていて、蒼と紅のグラデーションが空を塗り潰す。


「綺麗だね」

「そうだな」


私はちらりと隣の冬都を見た。

目が合ってしまった。

逸らすことは出来ず、ゆっくりと微笑む。

夕焼けの光の所為なのか、冬都の頬が少しだけ紅に染まった気がした。


「ねぇ、冬都」

「何?」


私は大きく息を吸い込み、冬都の目を真っ直ぐに見つめた。


「ずっと、友達でいてくれる?」


冬都の目は大きく見開かれた。

《友達か》と小さく口が動いた気がしたけど、冬都はしばらく何も言わなかった。



ごめんね、冬都。


私の自惚れで無いのなら、恐らく冬都は私にそういう感情を向けてくれていると思う。


でもまだ応えられる自信がないんだ。


友達として、親友として一緒にいることの心地良さを先に知ってしまったから。

恋をして、関係が終わってしまうのが嫌なの。


ずっと一緒にいたい。

そんな私のエゴと我儘。そして甘え。

冬都には酷なことをしてると思う。



【恋】は永遠と言わない

【愛】は永遠と言われる


なら、私は愛を選びたい。

壊れるのが怖い、弱虫だから。





「友達でいれるかは解らない。

でも、俺はずっと一緒にいたいと思うよ」


隣ではっきりと言葉を紡いだ冬都。


「そんなこと言ったら、甘えちゃうよ?」


私が遠くを見て笑えば、冬都は私の頭を撫でた。


「いつまででも待ってやるよ」

「ごめんね」



「俺は、ずっと麻里奈を愛してるから」



冬都はそう耳元で囁くと自転車に乗った。

その耳朶は真っ赤で。

不覚にも、嬉しくなってしまったんだ。

私は誤魔化すように荷台に乗った。

冬都が自転車を漕ぎ始める。



【恋】は永遠と言わない

【愛】は永遠と言われる


【恋】には終わりがある

【愛】は尽きない


終わるものに永遠を注ぎ込もう。

永遠ではないものに尽きぬものを加えよう。



冬都、ごめんね。

私はやっぱり貴方に恋はしないと決めました。



だから、待ってて。





弱虫を脱却した私が貴方に恋愛をする日まで。





気がついて下さった方もいるかもしれませんね。

「誰のモノ?」にと世界観が同じです。

ただこの作品の主人公である麻里奈は時系列的に、まだ「誰のモノ?」には登場していませんでした。

そして、ここでの冬都達は中3。時期的には12月くらいですね。

麻里奈が恋愛をする話も書きたいのですが…。

何しろ遅筆なもので(・・;)

冬都視点のものは近々上げられるといいなーと思ってます。


長文となってしまいました。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。

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